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EU加盟国によるユーロ安定化基準の遵守 ユーロ・コインを支える少女

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Audiovisual Library European Commission


 国際的な景気沈滞の流れを受け、EU経済も不況に見舞われている。そのため、加盟国の税収入は伸び悩む一方、失業者対策や社会保障政策のための歳出が増加している。このような状況下、フランスの国家財政は、2年連続で、GDPの3%を上回る赤字となった(2002年は4.0%)。マーストリヒト条約の第5附属議定書に基づき、ユーロ導入国は財政赤字を3%以下に収めることが義務付けられているが、フランスは2004年もこの義務に違反する見通しである。

 加盟国の財政不均衡が継続すると、ユーロの安定性が脅かされないので、EC条約第104条は監視手続について定めているが、監視役である欧州委員会の提案を受け、EU理事会は、去る6月3日、フランス政府に改善を勧告している(EC条約第104条第7項参照)。これを受け、来年度の財政赤字規模は、3.6%に縮小されることになったが、3%以下に削減するという要請にはまだ応えていない。

 10月8日、欧州委員会は、この状況をEU理事会に報告し、また、約2週間後の10月21日には、EU理事会に対し、新たな改善策の実施をフランスに勧告するよう提案した。なお、欧州委員会は、財政均衡に向け、フランスはより一層の努力が必要と考える一方で、現在の不況を考慮し、来年度の財政赤字を容認している。

 ユーロの安定化を図るため、財政赤字はGDPの3%以下に抑えるべきとする指針の是非をめぐってはかねてから議論が交わされており、プローディ欧州委員長の懐疑論も注目を集めているが、フランスのみならず、EU経済の牽引役であるドイツの財政赤字も膨らむ中で、柔軟な適用を求める見解が強まっている。すなわち、基準は見直しが必要であるという点で両国は見解が一致しているし、現EU理事会議長国であるイタリアのベルスコーニ首相も、10月22日、欧州議会(ストラスブール)において、不況時には、この基準を厳格に適用すべきではないと述べている( Der Spiegel 誌[ドイツ語])。失業対策費や景気刺激策費の増加が財政赤字の要因となっているが、EUが財政均衡を強く要求するとすれば、加盟国内では欧州統合懐疑論が台頭し、来年5月に予定されているEU拡大にも水を差しかねない。

 なお、フランス政府は、欧州委員会とは異なり、国家は国民に対して直接、責任を負っているとし、国内政策優先の予算編成を行っている。すなわち、雇用創出や景気回復に必要な費用を来年度も計上している。そのため、早期に財政均衡が図れるかどうかは定かではないが、フランスは、2005年には、前掲の義務を遵守するとしている。



 (参考) 欧州委員会の決定(2003年10月21日) (英語)



ユーロ導入国の財政赤字規制

 EC条約第104条に基づき、ユーロ導入国は、「過剰な」財政赤字を防止する義務が課されている。どの程度の財政不均衡でもって「過剰」とするかどうかは、EC条約内では特定されておらず、EU理事会が決定することになっているが(収斂化基準に関する議定書[マーストリヒト 条約附属第6議定書]第2条参照)、過剰財政赤字の取締手続に関する議定書(マーストリヒト条約附属第5議定書)第1条は、単年度の財政赤字額は国内総生産(GDP)比の3%以下、また、債務残高はGDP比で60%以下にしなければならないと定めている。
 
 ユーロ導入国がこの義務に違反していないかどうかは、欧州委員会によって調査されるが、ある加盟国による義務違反の事実ないしその危険性があると判断されるときは、EU理事会に通告することになっている(EC条約第104条第5項)。これを受け、理事会は、ある国の財政赤字が過剰であるかどうかについて判断し(第6項)、また、必要に応じ、当該加盟国に改善を勧告することができる(第7項)。なお、この段階において、勧告は公表されないが、所定の期間内に必要な措置が取られないときは、理事会はこれを公表することができる(第8項)。それでもなお、財政赤字状態が解消されない場合、理事会は、@ある具体的な措置の実施を命じたり(同第9項)、また、A罰金等を含めた制裁措置を当該加盟国に課すことができる(第11項)。

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