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旅客個人情報の提供に関するEC・米国間協定の適法性


 2004年5月28日、EC・米国間では、飛行機乗客の個人情報の提供に関する協定が締結され、即日、発効しているが、 かねてより欧州議会は、個人情報保護の観点から同協定の締結を批判し、EC裁判所に提訴していた(詳しくは こちら)。

 2006年5月30日、EC裁判所は、 同協定の内容について審査しなかったものの、その締結はEC法上の根拠に欠けるため、無効であると判断した(詳しくは こちら)。これを受け、欧州委員会は、2006年6月19日、同協定の破棄をEU理事会に提案すると共に、テロ対策や飛行機会社の円滑な業務遂行を可能にするため、米国と 新たな協定を締結するよう求めている。新協定締結の法的根拠としては、EC裁判所によって否認されたEC条約第95条に代わり、EU条約第38条が挙げられている が、この規定は、刑事に関する警察・司法協力の実施に関し、国際条約を締結する権限について定めている(参照)。なお、この提案に際し、欧州委員会は、米国との協定の内容そのものはEC裁判所によって批判されておらず、個人情報保護 の観点から問題は生じないと捉えている。



 

新協定の締結、遅れる

New  上掲の判決において、EC裁判所は、EC法上の根拠に欠け、無効とされる協定であれ、一方的かつ直ちに破棄することは国際法に反するとし、協定は2006年9月30日まで有効であること、また、それまでに新たな協定を締結するよう、ECの諸機関に要請していた(詳しくは こちら)。しかし、この期限までに新協定は締結されず、10月1日以降、EC・米国間には法律の欠缺状態が続いている。新協定の締結が難航しているのは、これを機に、米国が提供すべき情報項目の増加を要請し、これにECが反発しているためとされている(参照)。

 なお、米国は、旅客情報の伝達を拒む飛行機の乗り入れを拒んでいるため、EC(EU)加盟国の航空会社は、協定が締結される前に適用されていた2国間協定に従い、情報を提供している。例えば、オーストリア航空は、かつてのオーストリア・米国間の合意に基づき、10の旅客データを米国当局に提示しているとされる(参照)。なお、2004年5月に締結されたEC・米国間の協定は、34項目の開示を要求していた。


(参照) Der Standard v. 1. Oktober 2006 ("Keine Einigung zwischen EU und USA über Passagierdaten")

Der Standard v. 2. Oktober 2006 ("Datenschützer warnen EU vor Transfer von mehr Fluggastdaten an USA")

FAZ v. 1. Oktober 2006 ("EU und Amerika uneins über Verhandlungsergebnis")

 

(2006年10月2日 記)



 


参照: 欧州委員会のプレスリリース

EC裁判所の判決

EC・米国間の協定



New 欧州委員会、米国と合意


(2006年6月20日 記  10月2日 更新)