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Italy v Council 判決

Case C-352/96, Italy v Council [1998] ECR I-6937

EC裁判所、1998年11月12日 判決


 オーストリア、フィンランドおよびスウェーデンがEUに新規加盟した後(参照)、ECは、GATT 第24条第6項、特に、同規定の解釈に関する了解第5号以下に基づき、第3国と交渉を行った。これは、前掲の新規加盟3ヶ国にもECの共通関税が適用される結果、従来の関税率の一部引き上げがなされることに対処した措置である。了解第5号は、以下のように定めている。


These negotiations will be entered into in good faith with a view to achieving mutually satisfactory compensatory adjustment ...


 交渉終了後、ECは、オーストラリアおよびタイと協定を締結するに至っているが、これに基づき、EU理事会は、1996年、規則(Council Regulation (EC) No 1522/96 of 24 July 1996, OJ L 190, p. 1)を制定した。同規則は、両国から輸入される米に輸入割当量を導入 することや(関税率はゼロとする)、輸入ライセンスの発行について定めているが、両国の利益が適切に調整されていないため、GATT第24条第6項の意味における "mutually satisfactory compensatory adjustment" にはあたらず、無効であると主張し、イタリア政府はEC裁判所に提訴した(para. 11)。また、EC・オーストリア間では、輸入ライセンスの発行についてまで合意されていなかった。そのため、原告は、ECの一方的な措置は正当化されないと主張した(para. 12)。

 これに対し、理事会は、GATT第24条第6項は法令審査の規準にはなりえないこと(para. 14)、また、予備的に、同項は交渉の結果を審査する規準を設けていないと主張した(para. 15)。

 判決において、EC裁判所は、ECがGATT上の特定の義務の履行を意図しているか、訴えの対象であるECの措置がGATT内の特別な規定をはっきり指摘している場合は、GATTに基づき適法性が審査され るとする従来の判断を確認したうえで(参照)、本件では、第24条第6項に基づき行われた第3国との交渉の末に成立した合意に照らし規則が制定されているため、ECはGATT上の特定の義務の履行を意図していると判断し 、司法審査の必要性を認めた(paras. 19-21)。そして、第24条第6項の解釈に関する了解第5号は、"mutually satisfactory compensatory adjustment" の概念について客観的基準を設けていないため、締約国間で合意が成立しているならば、同規定の定める義務は履行され るとし、GATT違反を否定した(paras. 22-23)。




 解  説 


 EC裁判所は、Portugal v. Council 判決 において、EC法秩序におけるWTO諸協定の効力について、基本的な見解を示しているが、本件判決はその約1年前に下されている。1947年のGATTに関する Nakajima 判決理論やFediol 判決理論はWTO諸協定にも適用されることが(参照)、すでに本件判決より読み取れる。

 従来のGATTやWTO諸協定は、締約国間の交渉による紛争解決を認めているが、その範囲については争いがある。本件判決において、EC裁判所は、合意が成立していることを重視し、その内容の審査は行っていない。その結果、あらゆる合意が認められるように解される。

 なお、本件では、WTOの紛争解決了解(DSU)については触れられていない。



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