2004年12月17日、トルコとの加盟交渉開始が正式に決定されたことを受け、オーストリアの Wolfgang
Schüssel 首相は、交渉終了後(おそらく10年後)、国民投票を実施し、トルコのEU加盟の是非を直接、国民に問う方針を明らかにした。また、この決定に法的拘束力はないが、政治的には、事後の政権を拘束すると述べている。国民投票を実施する理由について、Schüssel
首相は、重要な政治問題について、国民に意見を求めるのは民主主義原則上、必要であり、また、国民投票の実施を決定することで、国民は冷静に議論することができると述べた。現EU加盟国の中でも、オーストリア国民は、さらなるEU拡大に非常に強く反対しているが(参照)、12月16・17日の欧州理事会で、Schüssel 首相は、この国民の明確な多数意見に反し、加盟交渉の開始を支持した。国民投票の実施は、国内での批判を弱める意図があるものと解される。
10年後とはいえ、実際に、国民投票が実施された場合、トルコのEU加盟が否決される可能性が高い。現行EU法上、第3国の新規加盟には、すべてのEU加盟国の承認を必要とするため(参照)、オーストリアが反対すれば、トルコのEU加盟は実現しない。
なお、2004年5月の 東方拡大 の際には、国民投票が実施されなかったことについて、Schüssel 首相は、隣国の中・東欧諸国とは異なり、トルコの場合には、そもそもヨーロッパに属するかという基本的な問題が残っているとし、東方拡大と比較することは馬鹿げているとした。
Schüssel 首相の提案に対し、Fischer 大統領は、国民投票の重要性を肯定しながらも、オーストリアが単独で実施することには問題があるとし、むしろ、EU規模で実施し、それにオーストリアも参加することが理想的であると述べた。もっとも、EU規模での実施が不可能であるならば、単独実施について検討する余地があるとした。
国民投票の実施は早くても10年後のことであるが、かねてから国民投票に賛成している
FPÖ(オーストリア自由党) は、法律でその実施を定めるべきと主張している。他方、トルコのEU加盟を指示している
緑の党 は、国民投票そのものに反対しており、政党間で見解はまとまっていない。憲法ではなく、法律で将来の政権を拘束することは民主主義に反するとする見解(Manfred
Rotter 教授〔国際法〕)や、10年にわたる加盟交渉の結果をオーストリアが単独で覆すことができるとは思えないとする見解(Öhlinger 教授〔憲法学〕)も主張されている。
トルコのEU加盟に関する国民投票の実施については、すでにフランスの Chirac
大統領が実施する意向を表明している(参照)。
(参照) |
Der Standard v. 17. Dezember 2004 (Schüssel kündigt Volksabstimmung über Türkei-Beitritt
an)
Die Presse v. 20. Dezember 2004 (Türkei-Beitritt: Fischer: Europaweite Abstimung)
Die Presse v. 20. Dezember 2004 (Türkei-Beitritt: Österreich allein kan ihn nicht stoppen) |
|