ウクライナのEU加盟



1. ウクライナとEU
 
 1991年8月、ウクライナは旧ソ連からの独立を宣言しているが、同年12月、旧ソ連が崩壊すると、独立を達成した。そして、旧ソ連体制からの脱却を図るため、EU加盟を目指すようになったが、EUに加盟するには、民主主義、法の支配、人権や少数派の保護といった諸要件を満たさなければならない(EU加盟要件について、こちらを参照)。しかし、それらが満たされていないだけではなく、ロシアを過度に刺激しないようにするため、EUはウクライナの要請を却下した。その一方で、ウクライナにおける民主主義の確立や経済発展を支援し、また、ウクライナとの政策協力や対話を促進するため、1994年6月、EUはウクライナとパートナーシップ・協力協定(agreement on partnership and cooperation)を締結している(発効は1998年3月)(参照)。

 2004年11月、ウクライナで「オレンジ革命」が起き、親EU派のヴィクトル・ユシチェンコが大統領に就任すると、EU路線は強化され、同国はEUとの経済統合や政治協力を外交の要に据えるようになった。EU側も、欧州近隣政策(European Neighbourhood Policy, ENP) の一環として、ウクライナとの関係を強化するとともに、2009年には東方パートナシップ(Eastern Partnership)を立ち上げ、ウクライナの民主化、法の支配の確立、市場経済への移行を支援した(参照)。

 その後、EUはウクライナのEU加盟を支援するため、連合協定(EU-Ukraine Association Agreement)の制定に着手するようになったが、協定が締結される直前の2013年11月、ロシアの圧力を受けたウクライナ政府は締結を見送った。しかし、2014年3月、ロシアがクリミア半島に侵攻すると、ウクライナの新政府は連合協定に署名し、同協定は2016年1月に発効した。

 ロシアとの関係が悪化する中、ウクライナの「ヨーロッパ路線」はさらに強化された。特に、2019年2月、ウクライナ議会は憲法を改正し、EUとNATOへの加盟を目標として明記するようになったが(参照)、これはロシアの警戒心を強める結果になった。

 2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、ウクライナではEUやNATOに加盟する必要性がより強く認識されるようになったが、ロシアとの戦闘を望まないNATOは、ウクライナのNATO加盟を議題に挙げることすら見送っている(参照)。ゼレンスキー大統領は、NATOは、すでに2018年の時点でウクライナを加盟候補国として承認しているにも拘わらず、加盟が一向に実現しない状況を批判する一方で(参照)、ロシアの侵攻から4日しか経過していない2月28日、EU加盟を申請した。



2.EU加盟候補国としてのステータス付与 ~ NATO加盟に代わるウクライナ支援
 
 EU加盟の要件・手続はEU条約第49条で定められているが(こちらを参照)、それによれば、EU加盟を申請できるのは、①民主主義、②法の支配、③人権や少数派の保護といったEUの基本的価値を享有するヨーロッパ諸国に限られる。ある国がこの要件を満たしているかは、EUの行政機関である欧州委員会によって審査されるが、前述したように、EU・ウクライナ間では、すでに1990年代に連携が開始され、EUはウクライナの民主化や法の支配、権利保護を支援しているにも拘わらず、EUの水準に達していないことは明白であった。しかし、NATOへの門戸が閉ざされているウクライナに対し、EUへの道も遮断することは、同国を孤立させることに他ならず、EUにそのような選択肢は与えられていない。そのため、ウクライナがEU加盟を申請した2月28日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長〔写真下左)は、ウクライナのEU加盟を支持する声明を出している(参照)。また、4月8日にはキーウ(キエフ)を訪問し、ウクライナのEU加盟手続をできるだけ迅速に進めると述べている(参照)。なお、これらの発言は何ら法的拘束力を持っておらず、ウクライナのEU加盟を保証するものではない。また、欧州委員会の委員長には、このような決定を下す権限は与えられていないため、EUの統一的見解にもあたらない。第3国と加盟交渉を開始するかどうか決定するのは、EU加盟国である。なお、EUには加盟国の国民の代表で構成される立法機関(欧州議会)が存在するが、第3国の加盟のような重大な案件は、この立法機関ではなく、加盟国によって決定される。

ゼレンスキー大統領(右)と握手するフォン・デア・ライエン欧州委員長
ゼレンスキー大統領と握手するフォン・デア・ライエン欧州委員長
~ 2022年4月8日 キーウ(キエフ)~
© European Union, 2022

 EU加盟国は決定に先立ち、欧州委員会の見解を聞かなければならないが(EU条約第49条第1項)、2022年6月17日、同委員会は、ウクライナを加盟候補国として承認するよう提案した。ただし、①憲法裁判所判事任命手続の制定・改善、②汚職撲滅対策の強化、③マネーロンダリング対策の実施、④オリガルヒ(新興財閥)の過度の影響力排除といった点で更なる取り組みが必要であるとしている(参照①)。

 約1週間後の6月23日、EU加盟国は、この提案に従い、ウクライナに加盟候補国としてのステータスを与えることを全会一致で決めた(参照)。なお、この決定は、全加盟国の首脳が出席する欧州理事会の定例会議で下されているが、EU条約第49条第1項によれば、決定を下すのはEU理事会である。どちらの理事会にも加盟国政府の代表が出席するが、欧州理事会には加盟国の首脳が、EU理事会には大臣クラスの者が出席するという点で異なっている。

 6月23日の首脳脳会議(欧州理事会)に先立ち、一部の加盟国(特に、オランダ)からは反対意見が出されていた。これは、ウクライナは民主主義、法の支配、人権保護を徹底していないだけではなく、まさにロシアとの戦争が継続しているためである。しかし、ウクライナに過度の期待を与えたり、EU内に戦争を持ち込むべきではないといった要請より、ヨーロッパ諸国間の連帯やウクライナ支援の重要性の方が強く認識された結果、加盟国首脳は迅速に、かつ、全会一致で、ウクライナを加盟候補国として認定した。なお、ウクライナの状況を考慮すると、この決定は時期尚早であり、ロシアによる軍事侵攻がなければ、結論は異なっていたと解されるが、EU加盟国には、その他の選択肢が与えられていたわけではない。つまり、NATO加盟の見通しが全く立っていないウクライナを見捨てず、ヨーロッパ諸国間の連帯性に基づき支援するには、EU加盟への展望を示す必要があった。

 ただし、ウクライナを加盟候補国として認定することが決まったに過ぎず、加盟そのものが決定されたわけではない。加盟を実現するため、ウクライナは、①民主主義、②法の支配、③人権保護、④競争力のある市場経済の確立、⑤EU法の受け入れといった要件を満たさなければならないが(こちらを参照)、その達成は容易ではない。達成できなければ、EU加盟は実現しないため、EU加盟が保証されているわけではない。つまり、フランスのマクロン大統領が指摘するように、ウクライナを加盟候補国として承認することは、法的な拘束力を持たない政治的メッセージに過ぎない。また、NATO加盟の見通しが全く立っていないウクライナに対し、ヨーロッパ諸国の連帯性を示すものに過ぎない(参照①)。

 なお、前掲の要件の充足を支援したり(経済的援助も行われる)、達成度を測るため、EUは加盟候補国と交渉を重ねるが、交渉は直ちに開始されるわけではなく、その開始はまだ決まっていない。欧州委員会によれば、ウクライナは、交渉開始に先立ち、①憲法裁判所判事任命手続の制定・改善、②汚職撲滅対策の強化、③マネーロンダリング対策の実施、④オリガルヒ(新興財閥)の過度の影響力排除といった諸要件を満たさなければならないが、ロシアとの戦闘状態にあるウクライナがこれらの要件、とりわけ、オリガルヒの影響力を排除することは非常に困難と解される(参照①)。

 ところで、旧ソ連構成国であったモルドバとジョージアも、2022年3月、EU加盟を申請しているが、EU加盟国首脳は、前者を加盟候補国として認定し、後者は、①政治の二局化に関する取り組み、②司法制度の改善、③汚職取締機関の独立性の強化といった特定の課題が達成された後に、加盟候補国として認定することを決めた(参照)。さらなる旧ソ連構成国の「EU路線」がロシアを刺激し、国際情勢を不安定にしないか注意を払う必要がある(参照)。

 (参照)AFP BB News 2022年6月26日付け「ジョージア、首相辞任求め大規模集会 EU候補国ならず反発」

Brussels European Council: joint press statement by Emmanuel Macron, Charles Michel, and Ursula von der Leyen
© European Union, 2022


3.EU加盟の意義

 EUは主として加盟国間の経済統合を目的とする国際機関であり、NATOのような軍事同盟ではない(ただし、現行EU条約第42条第7項は、第3国から軍事攻撃を受けた加盟国は他の加盟国に支援を要請することを認める)。そのため、ウクライナのEU加盟にはロシアの侵略を阻止する直接的な効果は無いが、EUから(さらなる)経済支援を得られるといった利点がある。ただし、ブルガリア、ルーマニア、クロアチアといった旧東側諸国の例に照らすと、ウクライナのEU加盟が実現するのは早くても10年後と想定されるため、ロシアとの戦争の終結に貢献するかは定かではない。逆に、戦争が終結していなければ、ハードルはさらに高くなる。つまり、ウクライナの加盟には全ての加盟国の承認が必要になるが、戦争がEU内に持ちこもれることを全ての加盟国が了承しているわけではない。

 ウクライナのEU加盟の意義は、旧ソ連体制ないしロシアからの解放といった点に見いだされる。詳しくは、EUは、①民主主義、②法の支配、③人権保護等を「基本的価値」として掲げ、それらを遵守していないロシアを「ヨーロッパの一員」としてみなしていないばかりか、ロシアに対し制裁を発動しているが、旧東側諸国にとってEU加盟とは、これらの諸原則を遵守し、ヨーロッパに復帰することを意味する。なお、1991年12月の旧ソ連崩壊後、独立国家となったエストニア、ラトビア、リトアニアは早々にヨーロッパへの復帰を決め、2004年5月、EU加盟を実現している。


4. その他の加盟候補国との交渉や、それに対する影響

 現在、EUは、旧ユーゴスラビア連邦に属していた①モンテネグロと②セルビアを加盟候補国として承認し(それぞれ2010年12月、2012年3月)、加盟交渉手続も開始されているが(それぞれ2012年6月、2013年6月)、その進捗状況は芳しくない。

 他方、③北マケドニアは両国よりも早く候補国に認定されているが(2005年12月)、かつてはギリシア、現在はブルガリアのボイコットにより、交渉手続はまだ開始されていない(参照)。

 なお、④ボスニア・ヘルツェゴビナは2016年2月に加盟申請を行っているが、候補国として承認されていない。

 ⑤ アルバニアも候補国として承認され(2014年6月)、交渉手続の開始も決定されたが、ブルガリアのボイコットにより、実際には開始されていない。

 そのため、これらのバルカン半島諸国は、ウクライナが優遇されることにならないか懸念している。なお、旧ユーゴスラビア構成国の中でも、スロベニアとクロアチアは、すでにEUに加盟している。

 ところで、トルコは、すでに1999年12月に加盟候補国となり、2005年10月には加盟交渉手続が開始されているが(参照)、エルドアン大統領との下で生じている非民主化の動きや人権侵害を理由に、加盟交渉手続は中断している。また、フランスやキプロスといった加盟国は、トルコとの交渉再開に反対している(参照)。

 このように、近年、EU加盟交渉手続は停滞しているが、これは、加盟を希望している国の事情(制度改革の遅れ)だけではなく、加盟候補国の承認、交渉手続の開始、加盟の承認には全ての加盟国の支持が必要であることに基づいている。つまり、現在、EUには27の国が加盟しており、全会一致による裁決は困難になっている(参照)。


5. ウクライナのEU加盟の可能性

 前述したように、EU加盟を実現するため、ウクライナは以下の要件を充足しなければならない。

 ① 民主主義の確立
 ② 法の支配の確立
 ③ 人権や少数派の保護
 ④ 競争力のある市場経済の確立
 ⑤ EU法の受け入れ

 これらの要件の充足は容易ではなく、ロシアの軍事侵攻に対する配慮といった特殊な事情が勘案されなければ、ウクライナのEU加盟には早くても10年かかると解される。

 なお、第3国のEU加盟には、全ての加盟国の承認が必要である。EUは農業政策の一環として、農家に補助金を支給しているが、農業大国であるウクライナのEU加盟に際しては、現加盟国との交渉が難航すると解される。また、ロシアとの戦争はEU加盟の障害となる。つまり、EU加盟国は他の加盟国に軍事支援を要請することができるが(EU条約42条第7項)、現加盟国はロシアとの戦闘を望んでいないばかりか、EU内に軍事衝突・紛争が持ち込まれることを望んでいない。


(参照)

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