離 婚 訴 訟 の 国 際 裁 判 管 轄


リストマーク 最高裁判平成8年6月24日、民集第50巻第7号1451頁

1. 事案の概要

 昭和57年5月、日本人男性Xは、ドイツ人女性Yと婚姻し、ドイツ国内で生活していた。その後、Aが生まれたが、XとYは不仲になり、XはAを連れて日本に戻った。

 平成元年7月8日、Yは自らの住所地を管轄するベルリンの裁判所に離婚請求とAの親権者の決定を求め提訴した。訴状や呼出状等の送達は公示送達(参照)によって行われ、Xは応訴しなかった。同裁判所はYの離婚請求を認容し、また、Yを親権者に指定する判決を下した(同判決は平成2年5月8日に確定している)。

 他方、Xも、離婚と親権者の決定を求め、平成元年7月26日、埼玉県内の裁判所に訴えを提起した。第1審である浦和地裁越谷支部は、以下のように述べ、我が国の国際裁判管轄を否認した(Xの訴えを却下)(平成3年11月28日判決、民集第50巻第7号1467頁)。

 「一般に被告の住所が国際的裁判管轄権を決定する基準の一つになることはいうまでもないが、それだからといってあらゆる訴訟についてそれが原則的に妥当するといったものではなく、離婚訴訟においては、離婚原因となる事実の有無が審理の中心となるが、離婚を認容するか否かの最終的な判断は、多くの場合婚姻共同生活の実体の解明なしにはよくなし得ないところであるから、その審理は、右婚姻共同生活が営まれた地を管轄する国の裁判所であることが望ましくその国に、原被告双方ともに住所を有しないような場合ならともかく、原被告のどちらかが住所を有する場合には、その国の裁判所が国際裁判管轄を持ち、その他の国の裁判所はこれを持たないものと解するのが相当である」


 これに対し、第2審は、「夫婦の一方が国籍を有する国の裁判所は、少なくとも、国籍を有する夫婦の一方が現に国籍国に居住し、裁判を求めているときは、離婚訴訟について国際裁判管轄権を有するとするのが相当である」とした上で、「婚姻生活の実体について審理する必要があることから、実際に婚姻生活が行われた国又は夫婦が共に居住する国の裁判所は、〔中略〕、国際的裁判管轄権を有すると解すべきであることは当裁判所も否定するものではないが、このことが、夫婦の一方の国籍国の裁判所の管轄権を否定する理由になるとは考えられない」と述べ、我が国の国際裁判管轄を肯定した(東京高判平成5年1月27日、民集第50巻第7号1474頁)。この判決を不服とし、Yは最高裁に上告した。

 

2. 最高裁判決

 〔上告棄却〕

 離婚請求訴訟の国際裁判管轄について、最高裁は、次のように述べ、被告が我が国に住所を有さない場合であれ、我が国の管轄権が肯定されうるとの立場を示した。

 「離婚請求訴訟においても、被告の住所は国際裁判管轄の有無を決定するに当たって考慮すべき重要な要素であり、被告が我が国に住所を有する場合に我が国の管轄が認められることは、当然というべきである。しかし、被告が我が国に住所を有しない場合であっても、原告の住所その他の要素から離婚請求と我が国との関連性が認められ、我が国の管轄を肯定すべき場合のあることは、否定し得ないところであ」る。


 次に、どのような場合に、我が国の国際裁判管轄が肯定されるかという点について、「国際裁判管轄に関する法律の定めがなく、国際的慣習法の成熟も十分とは言い難いため、当事者間の公平や裁判の適性・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である」とする 従来の判例法理 を確認した後、以下のように述べている。

 「管轄の有無の判断に当たっては、応訴を余儀なくされる被告の不利益に配慮すべきことはもちろんであるが、他方、原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度をも考慮し、離婚を求める原告の権利の保護に欠けることのないよう留意しなければならない。」


 このような判断を示した後、最高裁は、XY間の離婚を認めるドイツ国内裁判所の判決(上述参照)はすでに確定しているが、同判決は民事訴訟法第200条(現第118条)第2号の要件を欠くため、我が国では承認されず、XY間の婚姻関係はまだ終了していないといわざるをえないが(詳しくは こちら)、ドイツの判決がすでに確定している以上、Xがドイツ国内で離婚請求訴訟を提起しても不適法として却下される可能性が高く、Xにとっては、我が国で裁判する以外に方法はないと考えられるとし、Xの離婚請求訴訟につき、我が国の国際裁判管轄を肯定することは条理にかなうと判示した。 





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