昭和57年5月、日本人男性Xは、ドイツ人女性Yと婚姻し、ドイツ国内で生活していた。その後、Aが生まれたが、XとYは不仲になり、XはAを連れて日本に戻った。 平成元年7月8日、Yは自らの住所地を管轄するベルリンの裁判所に離婚請求とAの親権者の決定を求め提訴した。訴状や呼出状等の送達は公示送達(参照)によって行われ、Xは応訴しなかった。同裁判所はYの離婚請求を認容し、また、Yを親権者に指定する判決を下した(同判決は平成2年5月8日に確定している)。 他方、Xも、離婚と親権者の決定を求め、平成元年7月26日、埼玉県内の裁判所に訴えを提起した。第1審である浦和地裁越谷支部は、以下のように述べ、我が国の国際裁判管轄を否認した(Xの訴えを却下)(平成3年11月28日判決、民集第50巻第7号1467頁)。
これに対し、第2審は、「夫婦の一方が国籍を有する国の裁判所は、少なくとも、国籍を有する夫婦の一方が現に国籍国に居住し、裁判を求めているときは、離婚訴訟について国際裁判管轄権を有するとするのが相当である」とした上で、「婚姻生活の実体について審理する必要があることから、実際に婚姻生活が行われた国又は夫婦が共に居住する国の裁判所は、〔中略〕、国際的裁判管轄権を有すると解すべきであることは当裁判所も否定するものではないが、このことが、夫婦の一方の国籍国の裁判所の管轄権を否定する理由になるとは考えられない」と述べ、我が国の国際裁判管轄を肯定した(東京高判平成5年1月27日、民集第50巻第7号1474頁)。この判決を不服とし、Yは最高裁に上告した。
2. 最高裁判決
次に、どのような場合に、我が国の国際裁判管轄が肯定されるかという点について、「国際裁判管轄に関する法律の定めがなく、国際的慣習法の成熟も十分とは言い難いため、当事者間の公平や裁判の適性・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である」とする
従来の判例法理 を確認した後、以下のように述べている。
このような判断を示した後、最高裁は、XY間の離婚を認めるドイツ国内裁判所の判決(上述参照)はすでに確定しているが、同判決は民事訴訟法第200条(現第118条)第2号の要件を欠くため、我が国では承認されず、XY間の婚姻関係はまだ終了していないといわざるをえないが(詳しくは こちら)、ドイツの判決がすでに確定している以上、Xがドイツ国内で離婚請求訴訟を提起しても不適法として却下される可能性が高く、Xにとっては、我が国で裁判する以外に方法はないと考えられるとし、Xの離婚請求訴訟につき、我が国の国際裁判管轄を肯定することは条理にかなうと判示した。 |
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