経験則には、社会人なら誰でも知っている一般常識的なものや、専門家でなければ知りえないものがある。前者は証明を要しないが、後者は、当事者に攻撃防御方法を尽くさせ、公正な裁判を実現するために証明が必要と解されている。また、担当裁判官が個人的な研究や私的経験から知りえた経験則も証明を要する(第23条第1項は、裁判官が証人や鑑定人になり えないと定めているのも同趣旨である)。
(1) 証拠方法
裁判官が取り調べることができる有形物を 証拠方法 と呼ぶ。これには、証人、当事者本人、鑑定人 を対象にする 人証 と、文書、検証物などを対称にする 物証 がある。
人証 |
・・・ |
証人、当事者本人、鑑定人 を対象に行われる(詳しくは こちら)。
|
物証 |
・・・ |
文書、検証物 を対象に行われる(詳しくは こちら)。 |
|
|
(2) 証拠資料
証拠方法の取り調べによって裁判官が感得した内容を 証拠資料 という。
(例) 人証の場合 |
・・・ |
証人の証言
当事者の供述
鑑定人の鑑定意見
|
物証の場合 |
・・・ |
文書の記載内容 |
|
|
(3) 証拠原因
裁判官が確信を抱くにいたった資料や情況を 証拠原因 と呼ぶ。これには、Aの証拠資料の他に、弁論の全趣旨 が含まれる(第247条)。
(4) 証拠力
証拠資料が事実認定に役立つ程度を証拠力と呼ぶ。文書が真に作成者によって作成されていれば(つまり、第3者によって偽造されていなければ)、文書は形式的証拠力を有し、記載内容が真実に合致し、どの程度、要証事実の証明に寄与するか(実質的証拠力)審査される(詳しくは こちら)。
(1) 当事者による申出
当事者間で争いのある事実について証拠調べが行われるが、弁論主義 の第3テーゼに基づき、証拠調べは、原則として、当事者の申し出た証拠(証拠方法)について行われる(なお、例外的に 職権証拠調べ が可能な場合について、第14条、第207条第1項、第228条第3項、第233条等を参照されたい)。
当事者が裁判所に対し、特定の証拠の取調べを求める申立てを 証拠申出 と呼ぶ。申出に際し、当事者は以下の事項を具体的に示さなければならない(規則第99条第1項)。
@ 証明すべき事実(要証事実)
A 証拠方法
B 両者の関係(立証趣旨)
この書面は相手方に直送しなければならない(規則第99条第2項)。なお、相手方には 証拠抗弁 を提出する機会が保障されていなければならない。また、証拠申出は攻撃防御方法の一つであるから、適切な時期に行われなければならず(第156条)、裁判所は時機に後れた申出を職権で却下しうる(第157条第1項)。
期日における取調べを可能にするため、申出は期日の前に行うことができる(第180条第2項)。なお、裁判長は特定の事項に関する証拠の申出期間を定めることができる(第162条)。
証拠調べが実施されるまで、当事者は申出をいつでも撤回することができるが、証拠調べが開始された後は、相手方の同意がなければ撤回しえない(これは証拠共通の原則 に基づいている)。
申出人は、原則として、証人や鑑定人に支払う報酬、また、裁判官や裁判所書記官の旅費・宿泊料(概算)を予納しなければならず、なされなければ、裁判所は証拠調べを行わなくともよい。
(2) 裁判所による申出の審査
相手方当事者の 証拠抗弁 を考慮したうえで、裁判所は証拠申出に応じ、証拠調べを行うべきかどうか決定する(第181条第1項参照)。これを 証拠決定 と呼ぶ。裁判所によって審査されるのは以下の点である。
@ 証明を要する事実(要証事実)と証拠方法の関連性
→
|
関連性の無い証拠を取り調べる必要は無い(第181条第1項)。 |
A 証拠に基づき、要証事実を証明する必要性
→
|
例えば、相手方当事者が自白している場合は、証明の必要性が無い(第179条)。 |
B 証拠申出の適法性
→
|
例えば、前述した費用が予納されているかどうかなど |
C 証拠調べに不定期間の障害があるか(第181条第2項)
→
|
例えば、証拠調べを実施しうる見込みがなく、また、証人が行方不明の場合など |
D 唯一の証拠方法であるか
→
|
裁判所は、証拠申出に応じ、証拠調べを実際に行うかどうか判断するが、 ある争点に関し、唯一申し出られた証拠(これを 唯一の証拠方法 と呼ぶ)を却下し、証拠調べをせずに 弁論の全趣旨 のみを証拠資料として判断を下すことは認められない。ただし、当事者が怠慢であり、合理的な期間内に証拠調べを行うことができないような場合には例外が認められる。
|
証拠決定は、相当と認められる方法で告知すればよい(第119条)。なお、この決定に対し、当事者は直ちに独立の不服申立てを行うことができず、判決が下された後に上訴しうるに過ぎない(第283条)。
人証には、証人、当事者、鑑定人があり、裁判官はそれらを取り調べることができる。
(1) 証人尋問
@ 証人尋問とは
証人尋問とは、証人となる者に口頭で質問し、その経験した事実を供述(証言)さ せる形で行われる証拠調べを指す。
A 証人義務(第190条)
我が国の裁判権(司法権)に服するすべての者は証人となり、裁判所に出頭し(出頭義務)、宣誓を行った上で(宣誓義務)、証言を行う義務を負う(供述義務)。また、正当な理由なく、これらの義務を怠るときは刑事罰などに問われることがある。確かに、このような強制は証人となる者に精神的・経済的負担を強いるが、真実に合致した紛争解決という民事訴訟制度の機能を維持するために認められている。
上述したように、証人義務は、出頭義務、宣誓義務および供述義務という3つの義務からなるが、個々の義務の詳細は以下の通りである。
|
 |
a. 出頭義務(第192条〜第194条)
|
証人となる者は、証人尋問のために裁判所に出頭しなければならず、正当な理由なく出頭を拒むと、それによって生じた訴訟費用を負担させられたり、過料(第192条)、罰金または拘留という刑罰(第193条)を科される。また、強制的に出頭させるため、裁判所は証人の身柄を拘束することができる(勾引、第194条)。
なお、重病 、交通機関の故障、海外旅行、また、出頭費用が不足していたり、呼出状の送達が遅れ出頭期限に間に合わないなどの正当な理由があれば、出頭を拒むことができる。
|
b. 宣誓義務(第201条)
|
証言に際し、証人は、良心に従って真実を述べ、何事も黙秘しないことを宣誓しなければならず(第201条第1項)、宣誓の後、虚偽の供述をすると、偽証罪(刑法第169条)に問われる。
また、正当な理由なく宣誓を拒むと、過料等の制裁が加えられるが(第5項)、以下の例外が認められる。
・
|
16歳未満の者または宣誓の趣旨を理解できない者については、宣誓をさせることができない(第2項)。
|
・
|
証言拒絶権を有する者がこの権利を行使せず、証言する場合は、宣誓を免除することができる(第3項)。これは、同人を偽証罪に問うのは酷であるとの理由による。
|
・
|
証人やその親族に著しい利害関係を有する事項について証言させられるときは、宣誓を拒むことができる(第4項)。これは、虚偽の証言を防ぐという宣誓の機能が期待できないため
である。
|
|
c. 供述義務(第200条)
|
証人は自らの経験や認識を誠実に証言しなければならず、正当な理由なく証言を拒む場合には、過料、罰金または拘留という刑罰を科される(第200条)。なお、以下の場合には例外が認められる。
・
|
証人自身やその親族(配偶者や四親等内の血族など〔第196条参照〕)が刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがある事項について尋問を受ける場合(証言拒絶権、第196条)
このような場合にまで証言を義務付けることは、証人にとって酷であるため、証言拒絶権が認められている(憲法 第38条第1項参照)。
|
・
|
法律上、または、職務上、守秘義務が課されている事項について尋問を受ける場合(第197条)
なお、医師や弁護士(第197条第1項第2号)が守秘義務を負う事項について、患者や依頼人が秘密保護の利益を放棄したときは、証言を拒むことはできない(第2項)。
|
・
|
技術的または職業上の秘密に関する事項について尋問を受ける場合(第197条第3項)
|
|
(2) 当事者尋問
省略
(3) 鑑定
省略
物証の対象となるのは、@ 契約書や文書記録などの文書や、A 売買の目的物や事故現場などの検証物であるが、@の取調べを 書証、また、Aの取調べを 検証 と呼ぶ。以下では、書証について説明する。
(1) 書証
@ 書証の対象と証拠力
前述したように、書証とは証拠方法として提出された文書(証拠方法)を裁判所が取り調べることを指すが、文書とは作成者の思想、認識、報告が文字や記号を用いて表現された有体物をいう。表現方法(文字か、暗号か)や記載方法(手書きか、印刷したものか)は問わない。
|