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ユスティティア EUの教育・青少年政策




C. (訴 訟) 当 事 者

1. 当事者とは

 民事訴訟における当事者とは、@訴訟手続の主体として、自らの名において裁判権の行使を求める者と、Aその相手方を指す。第1審手続において、@は原告、Aは被告である。
 

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  裁判権の行使を求める者 相  手  方
第1審 原  告 被     告
第2審
(控訴審)
控 訴 人 被 控 訴 人
第3審
(上告審)
上 告 人 被 上 告 人



 なお、原告ないし被告は、それぞれ一名ずつとは限らない。つまり、原告が複数であったり(複数の者が集団で訴えを提起するケース)、被告が複数であることもある(訴えの主観的併合)。いずれにせよ、民事訴訟手続は原告(ないし原告ら)と被告(ないし被告ら)が対立する形をとるが(二当事者対立構造)、三当事者がそれぞれ独立した当事者として訴訟に関与する 三面訴訟 も例外的に認められる。



2. 当事者の確定

 訴状には当事者の名前が記載されていなければならないが、そこに挙げられた者、または、当事者として裁判所に出頭する者を当事者として扱ってよいか問題になる場合がある。

 (例)

a.

夫から妻に対する離婚の訴えの訴状を夫の愛人が受け取り、妻になりすまして裁判所に出頭し、離婚判決が下されるようにする場合(被告の氏名冒用)

b.

借金の支払いを逃れるため、債務者が友人に提訴を依頼し(同人は債権者の名前で提訴するものとする)、かつ、敗訴するようにしむける場合(原告の氏名冒用)



 当事者の確定方法については諸説が主張されているが、通説は訴状の当事者欄だけではなく、請求の趣旨・原因、また、その他の記載を合理的に解釈して確定すべきとしている(実質的表示説)。つまり、原告ないし被告として訴訟活動を行った者が常に当事者となるわけではない。

 a のケースでは、夫の愛人が被告として訴訟に関与しているが、訴状の記載によれば、被告は妻である。実際に訴訟に参加せず、手続保障もなされなかった妻に判決の効力が及ぶのは問題であるが、同人を被告として判決が言い渡され、同人に対して判決の効力が及ぶ時、同人には再審を申し立てを認めるべきである(大判昭和10年10月28日、民集第14巻1785頁参照)。なお、訴訟手続中に、氏名の冒用が判明する場合には、冒用者(夫の愛人)の弁論を禁止し、手続をやり直す必要があるが、被告(妻)の追認も認められる。

 b のケースでも同様に原告は債権者となるが、同人が敗訴した場合には再審の訴えを認めるべきである(第338条第1項第3号と比較されたい)。なお、訴訟手続中に氏名の冒用が判明する場合には、訴状に原告として記載された者(つまり、真の債権者)の意思に基づかない訴えであるため、不適法として却下すべきである。



3. 当事者能力(民法上の権利能力)

 当事者は当事者になることができる一般的な資格 を有していなければならない。これを 当事者能力 と呼ぶ。個々のケースの訴訟物に関係なく、一律的に判断される点で後述する 当事者適格 と異なる。

 当事者能力は、私法上の権利能力者、例えば、自然人や法人に与えられる(民事訴訟法第28条)。そのため、自然人や法人は訴訟当事者として訴えを提起し、自らの権利・義務について争うことができる。


私法上の権利能力 ⇒ 民事訴訟法上の当事者能力

 権利能力を有しない団体(例えば、サークル、町内会、同窓会など)であれ、以下の要件を満たす場合には、当事者能力が認められる(最判昭和39年10月15日、民集第18巻第8号1671頁、第29条参照)。

@ メンバーの変更にかかわらず、団体が存続すること(対内的独立性)

A 取引上、メンバーから独立した主体であること(対外的独立性)

B 管理、運営、意思決定手続が整備されていること(内部組織性)

C 独自の財産を有すること(財産的独立性)




 4. 当事者適格

 ある具体的なケースにおいて当事者として訴訟を追行し、かつ、判決を受けるために必要な資格を 当事者適格 と言う。これを有する者の権能という観点から訴訟追行権 とも呼ぶ。また、この資格ないし権能を有する者を 正当な当事者 と呼ぶ。

 前述した 当事者能力 は、個々の事件の訴訟物とは切り離し、抽象的に判断するのに対し、当事者適格は、具体的なケースにおいて誰と誰が当事者となって争い、本案判決を下すのが紛争の解決に必要かつ有効・適切であるかが問われる。

給付の訴えと確認の訴えでは、勝訴判決によって保護されるべき実体的利益の帰属主体であると主張し、または主張される者が正当な当事者となる。

 台湾が京都市内にある学生寮(光華寮)を所有しているとし、住居者に明け渡しを求めていた事件において、最高裁判所は、2007年3月27日、台湾の当事者適格を否認する旨の判断を示した(現在、我が国は、台湾政府ではなく、中国政府を中国国家を代表する政府として承認しているため、当事者適格を有するのは、台湾ではなく中国である)。

   リストマーク 判決のダウンロードは こちら


 

形成の訴えに関しては,正当な当事者が法定されていることが多い(例えば、民法第744条、人事訴訟法第12条など)。

 

 当事者適格は 訴訟要件 の一つであり、その有無は、裁判所によって職権で調査される。原告ないし被告が当事者適格を欠く場合、訴えは却下される。


5. 訴訟能力(民法上の行為能力)

 訴訟能力とは当事者として自ら単独で有効に訴訟を追行し、または相手方や裁判所の訴訟行為を有効に受けることができる能力を指す。訴訟手続は複雑であるため、専門知識が必要とされるが、自らの権利・利益を適切に防御することができない者を保護するために設けられた制度である。

 この制度は私法上の
行為能力 と同じ趣旨に基づいており、原則として、それに準じた取り扱いがなされる(第28条)。つまり、私法上の行為能力を有する者は訴訟能力をも有する。


私法上の行為能力 ⇒ 民事訴訟法上の訴訟能力

  ◎ 民法上、行為能力が制限されている者
    ・ 未成年者(第4条以下)
    ・ 被後見人、被保佐人、被補助人(第7条以下)



 他方、行為能力に欠ける未成年者成年被後見人は、原則として訴訟能力を有さず、法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができない(第31条本文)。

    リストマーク 法定代理人については こちら


 なお、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合には、その範囲で訴訟能力が認められる(同条但書)。法定代理人がいないか、法定代理人が代理権を行使しえない場合において、相手方が訴訟行為をする必要があるときは、特別代理人 の選任を求めることができる(第35条第1項)。

 訴訟能力は個々の訴訟行為の有効要件であるため、訴訟無能力者の訴訟行為や同人に対する訴訟行為は無効である。もっとも、追認があれば遡って有効になる(第34条第2項)。

 当事者が訴訟能力を欠く場合、裁判所は補正を命じなければならない(第34条条第1項)。訴訟能力の欠缺を看過してなされた判決は、上訴または再審の訴えを提起し、その取消しを求めることができる(第312条第2項第4号、第338条第1項第3号、第312条第2項但書参照)。なお、訴訟能力の審査には、職権探知主義 が適用される。

   リストマーク 訴訟要件について こちらも 参照



6. 弁論能力

 弁論能力とは、裁判上、実際に弁論をするために必要な能力を指す。我が国では弁護士をつけず、当事者本人が訴訟を追行することも認められる。つまり、訴訟能力を有し、単独で訴訟の当事者となりうる者(訴訟能力者)は弁論能力をも有するとの前提に立っているが、具体的なケースにおいて、裁判所は、訴訟手続の迅速かつ円滑な進行を確保するため、事案を十分に解明しえない当事者の陳述を禁止し(第155条第1項)、弁護士の付添を命ずることができる(同第2項)。これによって当事者は弁論能力を失う。




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