法律要件分類説と規範説は明確に区別されず、同じ理論として扱われることがあるが、厳密には以下のように異なる。
法律要件分類説とは、権利根拠事実は権利を主張する者が、他方、権利障害事実と権利滅却事実は権利主張を争う者が証明責任を負うとする理論である。この考えによる場合、権利根拠、障害、滅却事実の分類・区別をどのようにして行うかという問題が生じるが、それを法文の文言・表現形式や相互関係(本文・但書の関係、第1項、第2項の関係、原則・例外の関係など)によらしめる立場、つまり、法規の定め方を基準にして分類・区別すべきとするのが規範説である。それゆえ、規範説は法律要件分類説に属する理論と捉えることができる。
規範説が法文を重視するのは、法文は証明責任の所在(誰が証明責任を負うか)を考慮し、起草されているためである。例えば、本文の要件について原告が証明責任を負うとすれば、但書の要件については被告が負うと考えることができる。しかし、同説が考案されたドイツとは異なり、我が国では、証明責任の所在を考慮し、規定が設けられているとは限らないため、規定が証明責任分配の基準として機能するとは限らない。例えば、民法第415条は以下のように定める。
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」
これは損害賠償請求権を発生させる権利根拠規定であるため、権利の発生を主張する者、つまり、債権者が要件事実について証明責任を負うと解される。そう捉えるならば、「債務者の責めに帰すべき事由」によって履行不能になったことを証明するのも債権者となる(証明できなければ、債権者は損害賠償を得られない)。しかし、もとより債務の履行について責任を負うのは債務者であり、履行できなくなることについても(履行不能)、それが自らの責めに帰さない事由に基づく場合を除き、債務者は責任を負うと解すべきである。したがって、「債務者の責めに帰すべき事由」の有無を証明するのは債権者ではなく、債務者である(最判昭和34年9月17日)。
証明責任の分配を反映させるならば、第415条後段は、「債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」
ではなく、「ただし、債務者の責めに帰さない事由によって履行することができなくなったときは、この限りではない。」と定める必要があるが、民法改正作業では、そのような改正案が出されている(参照)。
なお、実体法内のすべての規定を権利根拠、消滅、障害規定のいずかれに分類しなければならないわけではない(例えば、民法第186条第1項)。また、民法第419条第2項のように、証明責任について定める規定もある(これらの規定も分類する必要がない)。
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