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ECのバナナ市場規則に関する法的問題


 banana  2. 委員会による法案

 ECの政策決定や立法行為は、委員会の提案に基づき開始される。そのため、委員会は「欧州統合のモーター」と呼ばれる(EC条約第250条第1項)参照

 1986年2月に制定された「単一欧州議定書」では、1992年末までに 域内市場 を完成させるという目標が定められたが、その実現に向け、委員会は、統一バナナ市場の設立に尽力し、以下のような内容の規則案を起草した(なお、厳密には、バナナ市場を含む農業市場は、域内市場ではなく、共同市場である。両者の違いについては、こちら)。


 前掲の バナナ議定書 を廃止し、中南米産バナナの総輸入量を大幅に制限し、なおかつ、20%の(従価)関税を課す。なお、1963年以降、ECはバナナに対し20%の従価関税を課しているため、これより重い関税を課したり、関税の形態を変更することはGATT上禁止される(GATT2参照)。

 総輸入量の30%は、従来、ECおよびACP諸国産バナナを取引していた業者に独占的に割り当てる。

 この委員会案によれば、中南米産バナナの輸入業者は、その取引量を大幅に制限されるだけではなく、輸入可能な数量の30%を、従前は中南米産バナナを全く取り扱っていなかった業者に無償で譲り渡さなければならない。要するに、中南米産バナナ輸入業者は、その労力をかけて拡大してきた市場シェアの30%を、従来は全く取り引きを行っていなかった業者に無償で与え、それは市場競争にさらされることなく、ACP産バナナ取引業者に完全に保障されるということである(参照)。もっとも、輸入数量を割り当てられたとはいえ、同業者が実際に中南米産バナナを輸入すれば、これまで取り扱ってきたECないしACP諸国産バナナの競争力が害されるため、中南米からの輸入に消極的であることは明らかである。同業者は、自らの輸入割当量を中南米産バナナの取引業者に売り渡して副収入を得ることに右制度の趣旨はあった。すなわち、中南米産のバナナの輸入業者は、自らの輸入数量を無償で没収された上、これを後日、買い戻さなければならないことになる。このような法案は、バナナを産出する南欧諸国(特に、フランスおよびスペイン)や、伝統的にACP諸国産バナナを輸入してきた国々(特に、イギリス)によって支持されたが、他方、EC内の「北国」には、到底受け入れられないものであった。特に、ドイツは、国内のバナナ輸入業者の権利ないし利益が著しく害され、また、バナナ価格の高騰により消費者の利益が損なわれることが危惧されたため、委員会案に強く反対した(それゆえ、バナナ市場規則をめぐる加盟国間の対立は、EC内の「南北対立」と称されることが多い)。このような「北国」の強い反対にもかかわらず、上述した委員会案は、理事会によって可決され、法律として正式に公布されることになった。この点に関しては、ECにおける政策決定(ないし法制定)手続の特殊性について説明する必要がある次節へ続く



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