Case C-245/02,
Anheuser-Busch (Budweiser)
[2004] ECR I-10989
2004年11月16日 EC裁判所判決(大法廷)
事案の概要
アメリカ法人の
Anheuser-Busch
は、Budweiser
という商標を用い、ビールを国際的に販売しているが、1980年10月、フィンランドにおいて商標登録を申請し、権利を取得している。他方、チェコ法人の
Budvar は、1967年7月、チェコで
“Budĕjovický
Budvar, národní podnik”という商号(trade
name)を登記しており、その英訳は、“Budweiser
Budvar, National Corporation”
となる。Budvar
は、1962年3月または1972年11月、フィランドで
“Budweiser Budvar”
という商標を登録したが、使用しなかったため、その権利は消滅した。しかし、“Budĕjovický
Budvar” または
“Budweiser Budvar” などの標識(mark)を用い、フィンランド国内でビールを販売していたため、Anheuser-Busch
は同標識を用いた営業や販売の中止、損害の賠償、また、“Budweiser
Budvar, National Corporation”
や
“Budweiser Budvar, national enterprise” などの商号の使用中止を求めて、1996年10月、フィンランドの裁判所に提訴した。
第1審裁判所は、Budvar
のビール瓶のラベルには、“Budĕjovický
Budvar”
と大きく印刷されているため、消費者がAnheuser-Busch
の製品と混同することはないとした。また、ラベルに小さく記載されている “Brewed
and Bottled by THE brewery BUDWEISER BUDVAR national enterprise”
は、商標としてではなく、商号として用いられおり、それは、Budvar
の商号の英語訳に当たると判断した。さらに、Anheuser-Busch
が商標登録した時点において、同商号は知れ渡っていたので、Budvar
は、同商号を使用する権利があると判示した(1967年のパリ条約第8条参照)。
これに対し、控訴審は、Anheuser-Busch
の商標登録時、Budvar
の英語による商号が広く知れ渡っていたことを裏付ける証拠はないとし、原判決を破棄した。
この判決を不服とし、両者がフィンランド最高裁に上告したところ、同裁判所は審理を中断し、以下の問題に関する先行判断をEC裁判所に求めた。
@ |
TRIPs協定の発効前に生じたものの、同協定の適用が開始された後も存続している商標権の侵害について、同協定は適用されるか。
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A |
企業の商号(trade
name)は、TRIPs協定第16条第1項第1文の意味における「標識」(mark)に当たり、その使用が禁止されるか。
|
B |
ある加盟国で商標登録される前に、第3者が取得した商号権(この商号は、当該加盟国において、登記されておらず、また、使用されていないものとする)は、TRIPs協定第16条第1項第3文の意味における既存の権利のとして保護されるか。
|
EC裁判所の判決
2004年11月16日の判決においてEC裁判所は、まず、TRIPs
協定の解釈に関する自らの権限を肯定し(para.
41)、また、EC法(指令
89/104)の解釈に際し、同協定の文言や趣旨を考慮しなければならないことを明らかにした(para.
42)( 間接的効力)。
問題@について
その上で、前掲の問題@を肯定した(paras.
47-53)。その理由として、確かに、TRIPs協定第70条第1項は、同協定の適用日(1996年1月1日)より前に生じた行為について、加盟国は協定上の義務を負わないと定めているが、その後も存続する案件について、協定の適用を排除するわけではないこと(Case
C-89/99, Schieving-Nijstad and Others [2001] ECR I5851,
paras. 49-50)、また、第70条第2項は、適用開始日に保護されている権利の保護を義務付けていることが挙げられている(paras.
47-53)。
問題Aについて
前掲の問題Aについて、EC裁判所は、まず、指令89/104について検討しているが、商標権の排他性について定める第5条は、製品の区別以外の目的で使用される標識(特に、商号や企業名)については定めていない(Case
C23/01, Robelco [2002] ECR I-10913, paras. 31 and 34)(para.
64)。そのため、加盟国が独自の規定を制定しうるが、その際に、TRIPs協定の文言や趣旨をできるだけ考慮しなければならないとしている(para.
70)( 間接的効力)。同協定第16条は、商標権の排他性を保障しており、権利者は、自らの製品と混同しうるような標識を第3者が使用することを禁止しうるが(paras.
71-74)、もっとも、第17条によって制限される場合がある。すなわち、第17条は、登録商標と同一または類似する標識を商号として用いることを認めている。ただし、公正な商取引慣行に則していなければならない(paras.
76-85)。
問題Bについて
ある加盟国で商標登録される前に、第3者が取得した商号権(この商号は、当該加盟国において、登記されておらず、また、使用されていないものとする)は、以下の要件が満たされる場合、TRIPs協定第16条第1項第3文の意味における既存の権利に該当する。
@ |
TRIPs協定の対象となる権利であること
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A |
商号権はTRIPs協定第1条第2項の意義における「知的所有権」に当たり、その保護が義務付けられる(Report
of the WTO Appellate Body, United States - Section 211 of the
Omnibus Appropriations Act, cited above, paragraphs 326 to 341)。また、パリ協定第8条は、商号権の保護について明確に定めているが、TRIPs協定第2条第1項に基づき、パリ協定の遵守が義務付けられる(paras.
90-93)。
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B |
商標と同一または類似する標識の使用が許されていること(para.
100)
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なお、商号は登記の有無を問わず保護されなければならない(パリ協定第8条)(para.
96)。また、フィンランド法は、最低限の使用や最低限知れ渡っていることを要件にしているが、TRIPs協定やパリ協定はこの点について定めていないため、判断は加盟国に委ねられている(para.
97)。
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