1981年7月、EU理事会は指令(Directive 81/602)を制定し、成長ホルモン剤が投与された牛肉の輸入を禁止している(参照)。また、1993年2月には、いわゆるバナナ市場規則(Regulation 404/93)を採択し、バナナの輸入を規制した(参照)。このような措置によって、牛肉やバナナの輸入量は大きく落ち込み、業者は損害を被った(中には倒産した法人もあった)。なお、損害はEC内に本拠を置く企業(貿易・販売業者)だけではなく、第3国の企業(輸出・生産業者)の下にも生じている[1]。
前掲のEC第2次法がWTO諸協定に違反することは、すでにWTOの紛争解決機関(DSB)によって確認され、是正が勧告されているが(参照@、A)、ECはそれを適正な期間内に実施していない。つまり、ECは新たにWTO法違反(DSBの勧告実施義務違反)を侵しているが、それに対する制裁として、WTO加盟国(アメリカ合衆国とカナダ)はECからの輸入品にかかる関税を大幅に引き上げた(詳しくは
こちら)。その額は、ホルモン剤投与牛肉のケースでは、年間1億1600万ユーロ、また、バナナのケースでは、年間1億9100万米国ドルにも達し、マス・メディアでも大きく扱われることになったが、対抗措置の影響を受け、EC製品の販売力は著しく低下し、倒産の危機にさらされるほど、大きな損害を被った業者(製造・輸出企業)もあった。
バナナ紛争におけるアメリカの対抗措置
このように、損害は、@ WTO諸協定に違反するEC第2次法の適用より直接的に生じただけではなく、A ECがDSBの勧告を所定の期間内に実施しなかったことの報復としてWTO加盟国(米国)が講じた措置より発生している。なお、損害を被ったのは、EC企業だけではなく、第3国の企業も被害を受けている。その他にも、損害は、ECが第3国(WTO加盟国)に対して発動した制裁を原因として発生しているが、この措置は、WTO諸協定に違反するものではない。
|