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Cordis Obst 判決、Bocchi Food 判決、T. Port 判決
(第1審裁判所)



Case T-18/99, Cordis Obst v. Commisssion [2001] ECR II-913(1999年1月21日提起)

Case T-30/99, Bocchi Food v. Commisssion [2001] ECR II-943(1999年1月28日提起)

Case T-52/99, T. Port v. Commisssion [2001] ECR II-981(1999年2月19日提起)

第1審裁判所 2001年3月20日 判決


 1993年2月に制定されたバナナ市場規則は、1998年7月に改正され(Regulation (EEC) 1367/98)、同年10月に新しい執行規則が制定されているが(Regulation (EEC) 2362/98)、同執行規則第6条第3項に基づき、第3国産バナナの輸入割当量が減少し、損害を被ったとして、Cordis Obst、Bocchi Food と T. Port は、第1審裁判所にそれぞれ別個に訴えを提起した。被告はいずれも欧州委員会である。ECの損害賠償責任は、ECの違法な行為より損害が発生した場合に認められるが(詳しくは こちら
、原告らは、前掲執行規則はWTO諸協定に反すると主張している(See Case T-52/99, T. Port, para. 30)

 なお、Cordis Obst は、バナナの輸入実績がない1994年〜1996年を基に輸入割当量が算定されたため損害を被ったとして、その賠償も請求している。また、T. Port は、1994年にフィンランド、オーストリアおよびスウェーデンに輸入した量だけ、輸入割当量が削減されており、そのために損害を被ったとし、その賠償をも求めている

 これらの3件の訴えについて、第1審裁判所は、いずれも2001年3月20日、文言上、ほとんど同一の判決を下し、原告らの訴えを棄却した。なお、本件判決に先立ち、EC裁判所は、すでに1999年11月23日の判決において、WTO諸協定はEC第2次法の適法性を審査する基準にはならないとする基本原則を示している(Portugal v. Council 判決)。 このリーディング・ケースを踏まえ、原告らは、2000年10月4日に行われた口頭弁論手続において、以下のように主張している。確かに、WTO諸協定はEC第2次法の適法性を審査する基準にはあたらないが、バナナ市場規則がWTO諸協定に違反することは、すでにWTOの紛争解決機関(DSB)によって確定されており、これを受け、ECはバナナ市場規則を改正している。それゆえ、本件では、前述したEC裁判所の先例法理は適用されない(See Case T-52/99, T. Port, para. 34)。原告らは、さらに、WTO諸協定違反を除去するため、法改正を行った際にも、ECはWTO諸協定に違反しており、このような場合には、WTO諸協定に照らした法令審査が可能であること(para. 35)、また、執行規則の制定に際し、欧州委員会は承知の上でWTO諸協定違反を犯しており、これは裁量権の濫用にあたることを指摘している(para. 36)。


   リストマーク 原告らの主張



 これに対し、欧州委員会は、個人はWTO諸協定違反を理由に、EC第2次法の適法性を争うことはできないこと(直接的効力の欠缺)、また、それゆえに、委員会のWTO諸協定違反が裁量権の濫用として提訴することも認められないと反論している(paras. 38-42)。

 判決において、第1審裁判所は、WTO諸協定はEC第2次法の適法性を審査する基準にはならないとするEC裁判所の先例(Portugal v. Council 判決)より、WTO諸協定は個人に権利(WTO諸協定違反に関するECの責任を訴追する権利)を与えることを意図していないとし、訴えを退けている(Case T-18/99, Cordis Obst, para. 51; Case T-30/99, Bocchi Food, para. 56; Case T-52/99, T. Port, para. 51)。また、原告は、所定の目的とは異なる目的のために第2次法が制定されていることを主張・証明していないため、委員会が裁量権を濫用したとする主張は失当であるとしている(See Case T-52/99, T. Port, paras. 54-56)。さらに、確かに、WTO諸協定に照らした第2次法の審査も例外的に可能であるが、本件はそのようなケースに該当しないと判示している(paras. 58-59)。


 このように述べ、第1審裁判所は、欧州委員会の規則(Regulation (EEC) 2362/98がWTO諸協定に違反するかどうかについて審査していないが、後に、WTO紛争解決機関(DSB)は、同規則もWTO諸協定に違反すると認定している(詳しくは こちら)。これを受け、2001年3月にも訴えが提起されているが、このケースでも第1審裁判所は、ECの損害賠償責任を認めていない(詳しくは こちら)。


 なお、前掲の判旨は、Case T-2/99, T. Port と Case T-3/99, Banatrading  でより明確になっている。同事件の原告らは、第3国産バナナの輸入業者であるが(バナナ市場規則のグループAとグループCに属する)、割り当てられた輸入量では満足せず、他の業者から輸入ライセンスを購入し、輸入関税を支払った。そのために損害を被ったとして、その賠償を求めたのが本件であるが、当初、原告らは、バナナ市場規則がGATTに違反することを指摘していた。しかし、後にこれを撤回しているため、本件では、GATT違反は問題にならないが、第1審裁判所は、EC裁判所の Dior 判決(para. 44)を参照した上で、WTO諸協定は、それを直接援用して提訴する権利を個人には与えていないと判断している(Case T-2/99, T. Port [2001] ECR II-2093, paras. 51 et seq.; Case T-3/99, Banatrading [2001] ECR II-2123, paras. 43 et seq.)。

 


リストマーク 第1審裁判所の判断(WTO諸協定違反から生じたECの損害賠償責任について)




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