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WTO諸協定違反より生じた損害の賠償請求

ECの機関やその官吏の職務行為よって損害が生じた場合、加盟国や個人は、EC裁判所または第1審裁判所に訴えを提起し、その賠償を請求することができる(第235条、第288条第2項)。例えば、EC法の適用によって、個人が損害を被る場合、同人は、第1審裁判所に提訴し、その賠償を請求することができる。他方、加盟国はEC裁判所に提訴しなければならない。

損害賠償請求が容認されるためには、原告は、以下の要件の充足を主張・証明しなければならない。



 
損害賠償請求が認められるための要件


@ ECの行為が違法であること

 軽微な法令違反では足りず、重大な法令違反がなければならない。これは、裁量権の濫用が明白かつ著しい場合に認定される。


A 損害が発生していること

B 違法行為と損害の発生に因果関係があること


リストマーク 参照(EU法講義ノート)


 
ECのWTO諸協定に反する行為によって損害が発生した際、私人はその賠償を請求しうるかどうかという問題では、@の要件の充足性が問題になる。EC裁判所の判例において、WTO諸協定は直接的効力を有さないことが確立されている(参照)。つまり、私人は、EC法がWTO諸協定に違反することを理由に、EC法の適法性を争うことが許されない。したがって、WTO諸協定違反を理由に、損害賠償を請求することも認められない (Case T-18/99, Cordis v Commission [2001] ECR II-913, para. 51; Case T-30/99, Bocchi Food Trade International v Commission [2001] ECR II-943, para. 56; Case T-52/99, T. Port v Commission [2001] ECR II-981, para. 51).


 WTO諸協定そのものではなく、DSBの判断
(EC法がWTO諸協定に違反することを認定する判断)を根拠に損害賠償を請求することも、WTO締約国間で紛争が解決していない間は認められない。なぜなら、締約国間で争いが解決される前に裁判所がEC法の適法性を審査し、これを無効と宣言すれば、WTO法上、認めらた交渉権限をECより奪うことになるためである(Case T-19/01, Chiquita v Commission, para. 166)。

なお、EC裁判所は、DSBの勧告の実施期間内における法令審査を否認しているのに対し(Case C-93/02 P, Biret International v Council [2003] ECR I-10497, para. 62[2003年9月30日判決])事後に下された判決において、第1審裁判所は、妥当な実施期間が経過した後も、WTO締約国には交渉権限が与えられているとし、司法審査を否認している(Case T-19/01, Chiquita v Commission, paras. 163-166 [2005年2月3日判決])。


(参照) DSBの勧告を実施しなかったことより生じた損害の賠償請求


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