法 律 関 係 の 性 質 決 定

  1. 問題提起


 すでに説明したように、適用通則法に従い準拠法を決定するには、まず、ある具体的な法律問題は、いかなる単位法律関係に該当するか検討しなければならないが(詳しくは こちら、特別な考察を必要とする場合がある。例えば、以下のケースについて考えてみよう。

 

 例:離婚する夫婦(両者の国籍は異なるものとする)に未成年の子がいる場合、 その親権者または監護権者を決定する必要がある。親権者または監護権者の決定に関する準拠法は、どのようにして指定されるべきであろうか。この問題については、以下の2つの見解が考えられる。                                                                                                              

@

本決定は離婚に付随 し、離婚と密接に関係するから、離婚の準拠法に従って解決されるべきである(第27条参照)。

A

一般の親子関係の問題であるため、親子間の法律関係の準拠法に従って解決されるべきである(第32条参照)。

性質決定

 

 ◎ その他の例

 

夫の暴力行為を理由とする離婚に際し、妻が夫に対して行う慰謝料の請求(→ 不法行為の準拠法によるか、それとも、離婚の準拠法によるか)[1] (裁判例

未成年者であれ、結婚したときは成人として扱われるか(婚姻による成年擬制、→ 婚姻の効力の準拠法によるか、それとも、行為能力の準拠法によるか)

 宝石の販売に関し委任契約を結んでいた者が、この契約の範囲を超えて行った行為より生じた費用の請求権(→ 委任契約の準拠法によるか、それとも事務管理の準拠法によるか(こちらを参照))

 運送契約に基づき商品を輸送する者の過失によって商品が損壊したことを理由とする損害賠償請求(運送契約の準拠法によるか、それとも不法行為の準拠法によるか(こちらを参照))

 AがBから相続した財産がCに譲渡された後、Aの相続権が争われ、Cへの所有権移転について生じる問題(相続の準拠法によるか、それとも物権の準拠法によるか〔最判平成6年3月8日判決参照〕)

     
図


 

      問題 も解いてみましょう!         問題

 

 

 このような法律関係の性質決定に関する問題は、1891年、カーン(Kahn)によって初めて指摘されたとされる[2] 

 

 2.考察


 上述の問題に関しては、種々の見解が主張されてきた。

 @ 法廷地法説

    これは、法律関係の性質は法廷地の実質法に従って決定すべきとする見解である[3]

 この立場は、外国法を適用し、自国法の適用を制限することは主権の制限にあたるだけではなく、外国法に基づき法律関係の性質を決定することは主権の放棄にあたるという理論に基づいているが、このような考えは適切ではない。

 また、この見解によれば、内国法(自国法)が優先されることになり、これは国際私法の大原則(内外法の平等)に反する。

 

日本にはない法律制度(例えば、妻の無能力、別居)が問題になる場合、その性質決定はどのようにして行えばよいか参照

  溜池『国際私法講義』(第2版)125〜126頁参照



 A 準拠法説

  次に、準拠法として指定された実質法に従い性質を決定すべきであるとする見解が唱えられているポルトガル民法第15条参照

   もっとも、この説による場合、準拠法をどのようにして決定するか(法律関係の性質が決定しなれば、適用通則法を適用し、準拠法を指定することはできない)という問題が生じる。


性質決定


 なお、先に性質決定を行わず、適用通則法を二重に適用して準拠法を複数指定し(もっとも、親子間の法律関係に関する準拠法と、離婚に関する準拠法が同一になる場合もありうる)、その複数の準拠法の内容を 検討し、より適切なものを準拠法にするという考えも成り立ちうるが、国際私法上、このような方法は採用されていない。つまり、国際私法は、準拠法の内容を調査することなく、準拠法を指定する参照


性質決定




 B 国際私法自体説

 さらに、法律関係の性質決定は、国際私法の適用に際し生じる問題であるから、国際私法の観点からなされるべきであるとする見解が主張されている実質法からの解放

 法律関係の性質決定は、抵触規定の解釈の問題であるため、国際私法それ自体に基づいて決定するという理論には説得力があり、広く支持されている(我が国の通説)

 なお、性質決定の具体的な方法に関しては、以下のように争われている。


(a) 比較法説

 諸国の実質法を比べ、その中から共通の概念を導き、性質決定するとする見解
 また、日本法の母法または同一法系の考えに従うとする立場もある。

 もっとも、各国法の比較は困難な場合 がある。また、各国法の比較より、共通の概念が導かれるとは限らない。さらに、比較法による解決は、国際私法自体によって問題を解決するという「国際私法自体説」の趣旨に反すると批判されている。


(b) 抵触規則目的説

 法廷地の国際私法規定の趣旨・目的に照らし性質決定するという立場。事件の渉外的性格も十分考慮して性質決定すべきとされる。

 なお、準拠法に指定されうる実質法の内容を比較した上で、性質決定するのではない。つまり、離婚の際の親権者の決定を @離婚の問題と捉える場合に指定される実質法と、A親子間の法律関係と捉える場合に指定される実質法の内容を比較し、より適切な実質法が指定されるように性質決定するのではない。なぜなら、国際私法は、指定される準拠法(実質法)の内容を検討することなく、準拠法を指定するためである(暗闇への跳躍)。



 3.  裁判例


@ 前述した離婚の際の親権者または看護者の決定に関し、東京地裁[4]は、「離婚の際の親権の帰属問題は、子の福祉を基準にして判断すべき問題であるから、法例第21条の対象とされている親権の帰属・行使、親権の内容等とその判断基準を同じくすべきである」として、法例第21条(現在の適用通則法第32条)を適用し、準拠法を決定した。 


重要

 離婚の問題として捉えると、適用通則法第27条(第25条の準用)に 従い準拠法が指定されるが、その際には、以下のように、夫婦間に着目して準拠法が決定される。

1 夫婦の本国法が同じ場合には、その本国法

2 夫婦の本国法が同じではないが、常居所地法が同じときは、その常居所地法

3 夫婦の本国法も常居所地法も異なるときは、最密接関連地法

     ぽいんと 参照

     



 これに対し、親子間の法律関係に関する準拠法は、次のように、子を中心にして決定される(第32条)。


1 子と親の本国法が同じときは、子の本国法

2 その他の場合には、子の常居所地法

 

 なお、この場合には、子の福祉の観点から、子を中心にして準拠法が指定されるが、指定された準拠法が実際に子に有利な内容になっているかどうかは、準拠法を決定する段階で審査されない。



A   離婚そのものに基づく慰謝料の請求について、横浜地裁[5]は、「離婚に伴う財産分与及び離婚そのものによる慰謝料請求については、いずれも離婚の際における財産的給付の一環をなすものであるから、離婚の効力に関する問題として」扱うべきと判断した。

   これに対し、夫の暴力行為に対する慰謝料請求は、不法行為の問題として扱うべきである(通説)。また、夫が別の女性と不貞行為を行ったことが離婚原因となり、妻が同女性に慰謝料を請求(第三者による婚姻侵害に基づく慰謝料請求)も同様に、不法行為の問題として扱うべきである(出口『基本論点国際私法』(第2版)229230頁参照)。


 

 【参考文献】

  中西康「法律関係の性質決定」渉外判例百選(第3版)4頁以下






[1]      ここでは、離婚の問題か(適用通則法第27条)、それとも、離婚の原因が配偶者の暴力行為にあるとすれば、不法行為の問題か(第17条)が問題になる。

[2]      また、この問題は、フランス人のバルタン(Bartin)によっても指摘されているが、この点につき、溜池「国際私法講義」121頁以下または櫻田「国際私法」2)67頁以下参照。

[3]      京都地判昭和3177

[4]      東京地裁平成21128日判決(渉外判例百選(第3版)4頁)。

[5]      横浜地裁平成31031日判決(渉外判例百選(第3版)4頁)参照。




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