訴 え の 併 合


  基 礎 知 識


1.
訴えの併合の形態

(1) 客観的併合(請求の併合)

 一つの訴えで複数の請求をすることを請求の客観的併合という。例えば、甲が乙に対し、未払家賃の支払請求と賃貸物件の明渡請求を一つの訴えで提起する場合や、離婚の訴えと財産分与の訴えを同時に提起する場合がこれに当たる。



原告

@家賃の支払請求
A物件の明渡請求

被告

原告

@離婚の訴え
A財産分与の訴え

被告



 併合される請求相互間の関連性は要求されないが、法律上、それが禁止されておらず、また、併合される請求が同種類の訴訟手続[1]によって審理される場合に認められる(民訴法第136条)例えば、上掲のように財産権上の請求をまとめて訴えを提起することは許されるが、訴訟事件と 非訟事件 を併合して訴えることは許されない。

 請求の併合は、訴訟追行上ないし訴訟経済上、有益であるため認められている。また、複数の判決の抵触を回避するといった長所もある。

 客観的併合は以下のように分類しうる。

 @ 単純併合
  複数の請求相互間に特に条件をつけず、それらを併合する場合

 A 予備的併合(ないし順位的併合)
 複数の請求の審理に順番を設け、第1次請求(主位請求)についてまず審理し、それが認容されない場合に限り、第2次請求(副位請求ないし予備的請求)の審判を求める場合  

 B 選択的併合(ないし択一的併合)  
 同じ目的を持つ複数の請求のいずれかが認容されることを求めて訴えが提起される場合

  (選択的併合の例)
   航空機事故の被害者(乗客)が航空会社に
     a 債務不履行に基づく損害賠償の請求(民法第415条)と  
         b 不法行為に基づく損害賠償の請求(民法第709条)
   を提起し、いずれかが認容されることを求める場合

       ※ a と b の請求権は競合関係にある。

 どちらかが認容されることが他方の審判申立ての解除条件とされており、ある請求が認容されれば、裁判所は残りの請求について審査する必要はない。もっとも、原告を敗訴させるためには、全ての請求について審理し、それらが退けられなければならない。    

 この類型の併合は旧訴訟物理論を前提にし、複数の認容判決が下されるのを防ぐ意義があるが、新訴訟物理論によるならば、実体法上、複数の請求権が認められても、それらの目的が同じであるならば、訴訟物は一つ(同一)であり、選択的併合は認められない(新訴訟物理論によれば、このような訴えでは、訴訟物(請求)ではなく、攻撃防御方法が複数、存在すると捉える)。なお、この類型の併合では審判の対象が十分に確定されないとして、新訴訟物理論を支持する者より批判されている。



(2) 主観的併合(共同訴訟)

 例えば、一人の原告が複数の被告に対して訴えを提起したり、または複数の原告が一人の被告に対して訴えを提起するなど、当事者が複数 (3人以上)になる状態を訴えの主観的併合とよぶ。訴えの主観的併合は、以下のケースのように、併合して審理するだけの妥当性ないし合理性が存在する場合に認められる(民訴法第38条参照)。


 @ 訴訟の目的である権利・義務が数人について共通であるとき第38条前段[2]

 例: 債権者が連帯債務者A、Bに対して、債務の履行を請求する場合

債権者

⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 

債務履行請求

 連帯債務者A
 連帯債務者B


 

 A 訴訟の目的たる権利・義務が同一の事実上および法律上の原因に基づくとき(第38条前段)[3]

 例: 同一の交通事故の被害者A、Bが加害者に損害賠償を請求する場合

同一の事故の被害者A
B
⇒ ⇒ ⇒ ⇒

損害賠償請求
 加害者


 

 B 訴訟の目的たる権利 ・義務あって、事実上および法律上、原因に基づくとき(第38条後段)[4]

 例: 異なる商品の代金の請求をそれぞれの買主にする場合  

売主 ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 

代金支払請求

 商品Aの買主
 商品Bの買主


 なお、必ず数人が一団となって訴え、または訴えられなければならない訴訟を固有必要的共同訴訟という(民訴法第40条第1項参照)。この訴訟えは以下の場合に生じる。


a.  

他人間の権利関係の変動を目的とし、形成の訴えが提起される場合

(例) 
3者がある夫婦に対して提起する婚姻無効または取り消しの訴え(人訴法第2条第2項)

 第3者が夫婦の一方のみを被告として訴えを提起し、請求が認容されるとき、その夫婦間の婚姻は無効となるが、被告とならなかった者にまで判決の効力を及ぼすのは不当であること、また、それゆえ同人に判決効は及ばないとすると、紛争は解決されないため、両者を被告として提訴しなければならない。

 取締役解任の訴えも会社と取締役を被告として提訴されなければならない(会社法第854条および第855条)。

b.  

数人が共同で管理・処分する財物について訴えが提起される場合

(例) 複数の選定当事者に対する訴え(第30条)、複数の破産管財人のいる破産財団に関する訴え(破産法代76条)。



 これに対し、そのような必要性はないが、共同訴訟となった以上は共同訴訟人に対する判断を一律にしなければならないという場合を類似的必要共同訴訟という。例えば、数人の株主が提起する株主総会決議取り消しまたは無効の訴え(商法第247条、第252条)などがこれに相当する。他方、共同で訴訟を提起する必要も、判決の内容を一律にする必要もない訴えを通常共同訴訟という。

 



2. 訴えの併合による裁判管轄の取得

(1) 客観的併合(請求の併合)

 上述した要件を満たし、客観的併合が認められる場合、受訴裁判所が、どれか一つの請求(以下、請求Aとする)の管轄権を有する場合には、本来は管轄権を有さないその他の請求(以下、請求Bとする)についても管轄権を取得する(民訴法第7条)。

 例えば、甲が乙に、@家賃の支払いと、A賃貸物の返還を請求する例において、@の訴えは東京地法裁判所の管轄に属し、Aの訴えの管轄は、本来、大阪地法裁判所の管轄に属するとしても、甲は両者を東京地方裁判所を提起することができる。

 客観的併合は、裁判所が請求Aの管轄権を有するとすれば、被告は同裁判所において応訴せざるをえないし、また、請求Bについても一緒に処理した方がよいと考えられるため認められている。


 

(2) 主観的併合(共同訴訟)

 訴えの主観的併合の場合にも、裁判所は併合される請求の管轄権を取得しうるかという点について、旧民訴法の下では争われていたが、新法第7条但書は、かつての通説に従い、第38条前段の場合にのみこれを認めている。


 そのため、売主が、商品Aの買主と商品Bの買主に、代金の支払いを請求するような場合(つまり、第38条後段のケース)、両訴えの管轄裁判所が同一の場合は、まとめて訴えることができるが、これ
が異なるときは、まとめて訴えることが許されない。



リストマーク

商品Aの買主に対する請求 ⇒ 東京地裁が管轄裁判所
商品Bの買主に対する請求 ⇒ 東京地裁が管轄裁判所


 
この場合は、両訴えを併合して東京地裁に提起しうる。

リストマーク

商品Aの買主に対する請求 ⇒ 東京地裁が管轄裁判所
商品Bの買主に対する請求 ⇒
大阪地裁が管轄裁判所

 
この場合は、両訴えの併合は認められない(第7条但書)


 

問題 問題

 XはY(東京在住)とZ(大阪在住)に、別個の車を1台ずつ販売したが、YとZが代金を支払わないため、裁判所に訴えることを考えている。YとZに対する訴えを東京地方裁判所にまとめて提起することは許されるか。なお、代金は、YとZがそれぞれの住所地で支払うとされていたとする(取立債務)。

 

 


国 際 訴 訟 に お け る 訴 え の 併 合


1. 客観的併合

 国際訴訟においても、請求の客観的併合は許容される。もっとも、国内事件の場合とは、異なり(民訴法第136条参照)、併合される請求相互間に一定の合理的な関連性(例えば、請求の基礎の同一性)を必要とすべきである[5]。なぜなら、本来、管轄権を有さない国で応訴しなければならなくなる被告の負担は、国内訴訟事件に比べ、著しく大きいためである。


2. 主観的併合

 訴えの主観的併合に関しては、学説・判例の立場は確立していない。

 従来の有力説は、訴えの主観的併合を認めることに消極的であった。なぜなら、訴えの主観的併合を認めると、被告(共同で訴えられる者)の利益を著しく害することがあるからである。また、国際訴訟の場合には、民訴法第17条に基づく移送も認められない。それゆえ、主観的共同訴訟を認めるかどうかについては、慎重に検討することが必要とされる。

もっとも、近時の学説の中には、被告の不利益を慎重に考慮しつつ、一定の条件、範囲のもとで、訴えの主観的併合を認める立場もある。例えば、固有必要的共同訴訟の場合に限らず、通常共同訴訟の場合であっても、紛争の統一的解決が必要されるときには、訴えの主観的併合を認めるべきとされる[6]


 主観的併合を認めた裁判例としては、例えば、東京地裁中間判決昭和6258[7]が挙げられる。これは、スペインの国有企業(以下Y1とする)の航空機とスペイン法人以下Y2とする)の旅客機の衝突事故によって死亡した日本人乗客の遺族ら(X)が、Y1Y2に対し、損害賠償の支払を求める訴えを東京地裁に提起した事件である。東京地裁は、Y1は日本国内に営業所を持っていること(民訴法第4条[普通裁判籍]参照)、また、死亡した日本人乗客は国内において国際運送契約を締結していたため(このような場合、ワルソー条約第28条に基づき、日本の裁判権が認められる)、日本の裁判権を認めた。

 また、Y2に関しては、XY1に対する請求とY2に対する請求は、本件事故という同一の原因に基づく損害賠償請求であるから、民訴法第7条(旧第21条)の併合請求の裁判籍が日本国内にあると判断した。そして、併合請求の裁判籍が日本にあることを根拠に、我が国の裁判権を認めるとしても、当事者間の公平・裁判の適性・迅速性といった訴訟法上の理念に反しないとして、日本国内の裁判所の管轄権を肯定した。


 これとは逆に、東京地判昭和62728[8]は、主観的併合を理由とする国際裁判管轄は原則として認められず、主観的併合は、当事者間の公平、裁判の適性・迅速の理念に合致する特別の事情が存する場合にのみ例外的に認められると判示した。また、東京地判昭和6261[9]は、外国人である被告(共同被告)は、自己の生活上の関係がなく、また自己に対する請求と関連性を持たない地(すなわち日本)に、その意に反して訴えられたなどの「特段の事情」が存在する場合には、その地の裁判所は管轄権を持たないと判断した。




[1]      民事事件は、訴訟事件と非訟事件(家事事件)とに大分される(こちらを参照)。前者には通常訴訟手続、手形・小切手訴訟手続、少額訴訟手続、人事訴訟手続または行政訴訟手続が適用され、後者には非訟事件手続ないし家事審判手続が適用される。異なる手続によって裁判されるべき請求を併合することは、手続を混乱させるので認められない。

[2]      その例としては、数人の連帯債務者に対する支払請求や、数人に対する同一物の所有権確認・目的物の引渡しの訴えなどが挙げられる。

[3]      例えば、同一の事故に基づく、数人の損害賠償請求や、主たる債務者と保証人を共同被告とする訴えなどがこれに相当する。

[4]      例えば、同種の売買契約に基づき、数人の買主に代金の支払いを請求したり、家主が異なる賃貸物件の賃借人数人に賃料を請求する場合である。

[5]      石川明・小島武編「国際民事訴訟法」(青林書院)48頁(小島・猪俣)。東京地裁中間判決平成元年619日、判タ703240頁。

[6]      学説の内容について、民訴判例百選I[新法対応補正版]45頁(細川)。

[7]      民訴判例百選I[新法対応補正版]44頁以下(細川)。

[8]      判時127577頁。本件の事案の概要は次の通りである。貨物船「アッティカ」号が座礁したため、同船を借り受けた日本法人X1と再借受人であるパナマ共和国法人X2は保険会社Y1から保険金の仮払金を受領したが、Y2(アッティカ社)は、この仮払金に関し、X1およびX2に対して償還請求権を有すると主張したため、X1およびX2は、Y2に対して、債務不存在確認の訴えを東京地裁に提起した。

[9]      金判79032頁。本件は、日本に住所を持つXが、日本法人Y1と香港に住所を有する外国人Y2に対して、銀行預金の横領に基づく損害賠償を請求した事件である。



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