電子メールの普及により、慣習的な手紙のやり取りは少なくなってきているが、それでもなお、EU内では大量の書簡が送られており、郵便は大きな利潤を生み出すサービスとされている。具体的には、年間の売上額は約880億ユーロに上り、また、EUのGDPの約1%にあたるとされる(参照)。
古くから郵便事業は国によって独占されているが、私企業の参入を認め、市場競争を高めることは、消費者に有利な状況をもたらすだけではなく、雇用の創出に貢献するとされている。また、その他のサービス市場にも良い影響を及ぼすと考えられている。なお、従来、ある加盟国から他の加盟国への郵送や、地方における集配には不備があったとされる。
このような点を踏まえ、EU(厳密にはEC)は、域内郵便市場の自由化を実現すると同時に、サービスの向上に努めてきたが、補完性の原則 に従い、詳細な政策決定は個々の加盟国に委ねている。つまり、EUレベルでは、基本方針が定められるに過ぎない。
小包の宅配事業は、すでに完全に自由化されているが、手紙や葉書については、以下のように段階的に進められている。
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1999年元旦以降 350グラム以上の手紙の自由化
350グラム未満の手紙に関しては、加盟国は特定の業者に保留することができる(指令97/67第7条参照)。
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A
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2003年元旦以降 100グラム以上の手紙の自由化
100グラム未満の手紙に関しては、加盟国は特定の業者に保留することができる(指令2002/39第1条第1項参照)。
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B
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2006年元旦以降 50グラム以上の手紙の自由化
50グラム未満の手紙に関しては、加盟国は特定の業者に保留することができる(指令2002/39第1条第1項参照)。
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50グラム未満の手紙も含めた完全な自由化は、2009年元旦より実施することが検討されており、それを実現するために必要な法令(指令)案は、欧州委員会によってすでに提出されている(参照)。同法案は、2007年内に欧州議会とEU理事会によって採択されるものと解されている。
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2008年2月20日、欧州議会とEU理事会は新しい指令2008/6/EC を採択した。それによれば、加盟国は2010年末までに郵便事業完全に自由化しなければならないが、11の加盟国は2012年末まで先延ばしすることが認められている(第2条および第3条参照)
。欧州委員会は、自由化によって雇用が創出されるメリットを強調しているが、生み出されるのは安い労働力であるとして反発する加盟国政府(特に、ルクセンブルク)もある。 |
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なお、新しい指令の制定に先立ち、イギリスは2006年より、市場を完全に自由化している。ドイツ市場も2008年より完全に自由化されるが、これに強く抵抗する加盟国も存在する。特に、フランスは、地方での郵便サービスに支障をきたすと反発しているが、欧州委員会が作成した法案には、補助金の給付という救済策も含まれている。
市場の自由化に関し、オーストリアでは憲法問題も生じている。同国の新しい郵便法は、2006年7月1日までに郵便受けを私企業も配達しうるようなものに取り替えるよう、家主に義務付けていたが、同年5月、オーストリストマークの憲法裁判所は、このような措置は財産権の侵害にあたるとし、該当する規定の発効を阻止している。
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