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欧 州 石 炭 鉄 鋼 共 同 体 の 消 滅


(1) 1950年代に調印された三つの共同体設立条約の内、欧州石炭・鉄鋼共同体条約は、発効日から50年間に限り適用されると定めるのに対し(同条約第97条参照)、EEC条約(現在ではEC条約)と欧州原子力共同体は無期限としている(EC条約第312条および原子力共同体条約第208条参照)。1992年に制定された欧州連合条約(いわゆるEU条約ないしマーストリヒト条約)の効力期限も、同様に無期限と規定されている(第51条)。要するに、石炭・鉄鋼共同体条約のみ、効力期間が限定されているのであるが、その理由としては、同条約が一番先に締結されたことが挙げられる。すなわち、従来存在しなかった形態の国際機関を設立するにあたり、加盟国はそれが実際にうまく機能するか確信が持てず、石炭・鉄鋼共同体を試験的に(換言すれば、時間的に限定して)設立することに合意したのである。



生産

(2) 石炭・鉄鋼共同体条約が失効する20027月以降も、同共同体を存続させるためには、条約の改正を初めとする何らかの措置が必要になるが、審議に際しては、まず、実際的な必要性が検討された。1952年の共同体発足時、石炭は最も重要なエネルギー源であり(80%)、石炭の不足も懸念されるほどであったが、その時代は長くは続かず、わずか数年後には斜陽産業と化していく。採算性が悪い炭鉱の閉鎖が続出する一方で、急激な産業転換が困難な企業には巨額の補助金が支給されており(これは現在でも続いている)、産業の維持は疑問視されている。

 次に、石炭・鉄鋼共同体は、ECおよび原子力共同体と共に、EUの柱の一つに組み込まれており、同共同体はEUの基盤の一つをなす(EU条約第1条第3項参照)という法的問題について検討しなければならない。この点を重視するならば、2002年以降も同共同体は存続しなければならないであろう。もっとも、EU条約第1条第3項は、EUは「三つの」共同体を基礎とすると定めているわけではないため、二つに削減することも可能である。なお、石炭・鉄鋼共同体条約第97条は、同共同体の存続期間を50年と定めているため、同共同体をそれ以降も存続させるためには、何らかの特別な措置が必要になる。

  長い議論の末、欧州理事会は、200012月、石炭・鉄鋼共同体を消滅させ、その管轄権はEC(単数)に承継させることを決定した。なお、ニース条約には、その財政的影響に関する議定書が加えられている。


           リストマーク 石炭・鉄鋼共同体消滅後のEUの3本柱構造



(3) ところで、石炭・鉄鋼共同体には、エネルギー政策を実施する権限が与えられていたが、ECにはそのような権限は与えられていない。ECは与えられた権限しか行使しえないことを考慮すると(個別的授権の原則)、ECによるエネルギー政策の実施には問題が生じる。もっとも、EC条約第3条第u号は、エネルギー政策の実施をECの活動の一つに挙げている。従って、ECは、条約内のその他の政策に関する規定を適用して、エネルギー政策を遂行することができる。例えば、通商政策に関する規定を適用して、エネルギー源の輸入を統制したり(輸入関税を決定することを含む)、また「商品またはサーヴィスの移動の自由」にかんする規定を適用して、ある加盟国で産出されたエネルギーを他の加盟国においても自由に流通しうるような措置を講じることができる。

 

(2006年5月27日 記)