ECと加盟国の共通の目標として、EC条約第136条は以下の事項を挙げている。
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雇用の促進
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労働者の生活・労働条件の向上
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適切な社会保護
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労使間対話の促進
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高い雇用率を持続させるため、労働力の発展
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社会的断絶の撲滅 |
これらの目標の解釈に際しては、@ 1961年10月18日制定のヨーロッパ社会憲章や、A 1989年12月9日制定の労働者の基本的社会権に関する共同体憲章が参照される。
@の社会憲章は、欧州評議会 の加盟国間で制定された国際条約であるのに対し、Aの共同体憲章は、イギリスを除く(参照)、EU加盟国間で締結された宣言で、法的拘束力は有さない。
ヨーロッパ社会憲章 
1961年、欧州評議会によって制定されたヨーロッパ社会憲章(European
Social Charter)は、労働者の権利や障害者の職業訓練・社会復帰に関して定めている。国際条約としての効力を持つが、法的規範力は弱く、実効性に欠ける。すなわち、同憲章違反を理由に、個人は裁判所に訴えを提起しえない。もっとも、手続の改正が進められており、1995年には、締約国の憲章違反に対し、労働組合、使用者団体、NGOに団体申立権を与える議定書が制定された。
なお、欧州評議会は、1950年に 欧州人権条約 を制定している。同条約第6条第1項は、「何人も、その民事上の権利及び義務、又は自己に対する刑事上の被疑事実の決定にあたり、法律によって設けられた独立の公平な裁判所による合理的な期間内の公正な公開審理を受ける権利を有する」として、裁判を受ける権利を保障している。この規定によると、裁判を受ける権利は、民事・刑事事件に限定され、社会政策・社会法の適用分野に関する案件(例えば、年金の支払いに関する紛争)に関しては、裁判を受ける権利が保障されないと考えることもできるが、欧州人権裁判所は、金銭の請求など、民事的性質を有する案件は、「民事事件」の中に含まれると判断している。
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労働者の社会的基本権に関する共同体憲章 
域内市場の統合が経済問題や企業競争力の強化のみを重視し、労働者の権利が軽視されることを避けるため、1989年、英国を除く、EU加盟国によって採択された。もっとも、法的拘束力はない。労働者の移動の自由、職業選択の自由、適正賃金の保障、生活・労働条件の改善、職業教育の充実化、青少年・障害者の保護、また、年金保障等について定め、その実現に必要な法案の提出を欧州委員会に要請している。
その他、EU加盟国は、2000年12月に EU基本権憲章 を制定し、社会的基本権を保障しているが、法的拘束力はなく、その違反を訴追することはできない。
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社会政策の実施に際し、ECと加盟国は、各国の慣習、特に、条約関係や、EC経済の競争力について考慮しなければならない(第136条第2項)。
なお、第136条は、社会政策上の目標を定めるに過ぎないため、直接的効力 を有さない(つまり、同条違反を根拠に個人が訴えを提起することは認められない)。また、第136条は、目標を定めるのみで、ECに権限を与えていない。そのため、政策の実施には、その他の規定(例えば、第137条)を援用しなければならない。
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