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6.  司 法 救 済 の 実 効 性

 ダンピング防止税が課された製品は競争力を失い、結果として、市場から締め出されることになる。このような状況が継続すれば(基本規則によれば、確定的なダンピング防止税の存続期間は、原則として5年である)、EC内で市場を再開拓することは困難になるため、利害関係者の速やかな救済が求められるが、第一審裁判所の訴訟手続には、通常、2年を要する 不作為違法確認訴訟の実効性について)。また、訴えの提起により、ダンピング防止規則の適用は停止されない(EC条約第242条参照)。そのため、仮の権利保護が必要になるが、これは実効的に機能していない。




  ダンピング防止規則の執行停止が認められるためには、@本案の訴えがEC裁判所または第一審裁判所に係属していること、A速やかに仮措置(執行停止)が必要であること、B仮措置の必要性が事実上ならびに法的に裏付けられていること、C仮措置から生じる利益が不利益を上回っていること、また、D仮措置に関する決定が本案の結論を先取りしないことが必要になる(See Case T-2/95, IPS v Council [1995] ECR II-485, para. 12.)。ダンピング防止税によって値段が高騰するなどの経済的事情を述べるだけでは、Bの要件は満たされず、結果として、仮の権利保護が与えられることは極めてまれである。


  

  仮に、個人の主張が認められたとしても、委員会や理事会はEC裁判所に控訴することができ、同裁判所の判断が下されるまで、ダンピング防止規則は適用され続ける。単に、第1審裁判所の判決の執行を先延ばしするために、ECの機関が控訴することはないと解されるが、訴訟手続の迅速化が必要であろう。なお、両裁判所での審理に5年以上を費やし、審理中に規則が失効 する場合であっても、その無効が裁判所によって宣言されると、輸出業者はすでに支払った税額の返還を請求しうる。もっとも、ダンピング防止税の賦課によって失った市場シェアの回復は困難 であろう。

 ところで、第一審裁判所手続規則第872項によれば、訴訟費用は敗訴当事者が負担することになるが、これが司法機関へのアクセスを抑制する要因になってはならないであろう。




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