事 例 の 検 討

   広島地裁呉支部昭和45427日判決・渉外判例百選(第3版)90

 パナマ船籍の貨物船が日本沿岸を漂流し、海岸に乗り上げて転覆、破損するおそれがあった。それにもかかわらず、所有者が船舶を撤去する義務を任意に履行しないため(当時の港湾法第37条の32項の原状回復義務を履行しないため)、Y(大阪府知事)は、行政代執行法第2条、第3条第3項に従い、サルベージ会社に船舶の曳航を請け負わせた。その後、Yは、かかる行為は海難救助にあたるとして、船舶の所有者に対し、海難救助料(1600万円)を請求した。しかし、同所有者が請求に応じないため、同救助料請求権を被担保債権とする船舶先取特権(商法第842条第5号)に基づく競売を申し立てた。他方、Xは、船主に対して債権を有しており、そのために、本件船舶に抵当権を設定していた。本件船舶の競売の配当表には、Yの方がXより先順位者として記載されたため、Xは、Yの行為は海難救助にあたらず、Yは海難救助料請求権と船舶先取特権を取得しないと主張して訴えを提起した。

  

判決

@ 本件の行政代執行は海難救助にあたるか

 Yは、行政代執行法の規定に基づき代執行を行ったのであるが、その行為は「危険にさらされた本件船舶を安全な海域に曳航するという救助の意思に下に」なされたものである。「手続的に行政代執行という形式をとったとしても、客観的に海難救助の成立要件を満たす限り、Yの行為を海難救助というを妨げない」とした。

 

A 海難救助行為は事務管理にあたるか

 海難救助行為が法例第11条第1項にいう「事務管理」にあたる かは 性質決定 の問題である。我が国の通説・判例は、確かに、海難救助は事務管理そのものとはいいがたいが、正義・衡平の観念に基づく公益的な制度という点では事務管理と同じであるため、事務管理にあたると解している。この見解によるならば、海難救助より生じた債権の成立(Yが海難救助料請求権を有するかどうか)に関する問題は、事務管理の準拠法、すなわち日本法による。

 準拠法に指定された日本法によると、救助を試みるだけではなく、それが成功していなければ、海難救助は成立したとみなされない。本件では、これは成功しているため、Yは請求権を有する。

 

B 海難救助請求権に基づく船舶先取特権の成否

 次に、海難救助請求権に基づき、船舶先取特権が成立するかどうかは、先取特権の成立は物権の成立に関する問題であるので、法例10条(適用通則法第13条)に基づき準拠法が決定される。同条は、 目的物の所在地法を準拠法に指定しているが、本件のように、船舶の場合は、その旗国地法が準拠法になる。したがって、本件の準拠法はパナマ法となる。

 


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