「フォーラム・ショッピング」と 「フォーラム・ノン・コンビーニエンス」 |
アメリカ合衆国では、一般に、州ごとに法律が異なっている(もっとも、統一商法典などの例外もある)。そのため、州際間の紛争(すなわち、複数の州に関わる紛争)に関しては準拠法を決定する必要がある。 A州法は重い損害賠償責任を認めていたり、また、B州法によれば裁判離婚が容易に認められるような場合、州外に住む者が、自らに(より)有利な判決を得ようし、これらの州の裁判所に訴えを提起することがある。特に、裁判離婚を容易に認めるネバタ州への提えが多いことはよく知られている[1]。もっとも、B州で裁判が行われるとしても、B州法が適用されるとは限らないため(要するに、B州で行われる裁判では、B州の実体法が適用されるとは限らない)、訴訟当事者に有利な判決が下されるとは限らない。適用される実体法は、国際私法に基づき決定されるのであるが[2]、結果として、法廷地の実体法が適用されることが多い[3]。 このように、法廷地の実体法が原告に有利であるとの理由から、その土地との関連性が薄いにもかかわらず、同地の裁判所に訴えが提起されることがあるが、これを認めると、ある土地に訴訟が集中するため、これを「フォーラム・ショッピング」(forum shopping[法廷地漁り])として認めないことがある。例えば、アメリカ合衆国では、@他の国(または州)も裁判管轄権を有し、かつ、Aその国(または州)で裁判をする方が便宜である場合には[4]、裁判を行わないとする実務が確立している[5]。これを「フォーラム・ノン・コンビーニエンス(forum non convenience)」の原則と言う。@の要件の趣旨は、訴えがどの国(または州)の裁判所にも係属しないという不都合を回避することにある。
なお、わが国の裁判実務では、これらの原則は一般に認められていない[6]。
[1] 石黒一憲『国際民事訴訟法』(新星社、1996年)170頁参照。 [2] 我が国では「法例」に基づき決められる。 [3] 東京弁護士会国際取引法部会編「国際訴訟のQ&A」商事法務研究会(商事法務研究会、1996年)41頁。 [4] 例えば、証拠調べなど適切・迅速に行われやすいことなどを理由とする。台湾で生じた飛行機墜落事故によって死亡した日本人乗客の遺族らが飛行機製造会社Y(米国法人)らに対し損害賠償の支払いを求め、米国カリフォルニア州の裁判所に提訴したケースにおいて、同裁判所は、証拠調べを台湾で行う必要性から、台湾が適切な法廷地であるとし(フォーラム・ノン・コンビーニエンスの法理)、訴えを却下した。このケースについて こちら を参照。 [5] 藤田泰弘「日/米国際訴訟の実務と論点」(日本評論社、1998年)211頁以下参照。 [6] 東京弁護士会国際取引法部会編「国際訴訟のQ&A」(前掲書)41頁以下の事例を参照されたい。
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