ア メ リ カ 合 衆 国 に お け る 事 例



 日本法人のY社は、オートバイ用のエンジンを製造し、アジア諸国に輸出販売している会社である。韓国法人のX社は、Y社からエンジンを購入し、それを組み立ててオートバイを製造し、海外に輸出販売していたが、米国民のAは同社のオートバイを運転中、エンジン故障のために転倒し、負傷した。そこでAX社に対して、製造物責任を理由とする損害賠償請求の訴えをカリフォルニア州の裁判所において提起したところ、X社はY社に対して、求償請求の訴えを同裁判所に提起した。Y社はこの訴えに応訴しなければならないかどうか答えなさい。なお、本件事故はアメリカ合衆国で発生し、Y社は同国内に支店を持たず、また、米国に直接、製品を輸出していないものとする[1]

 

[解説]米国では、州内に居住していない者に対する訴えは、以下の2つの要件が満たされる場合にのみ、許容される(米国連邦最高裁判所「旭金属工業事件」判旨参照[2])。



@ 被告と州との間に「最小限の関連性」があること

「旭金属工業事件」において、連邦最高裁の4名の裁判官は、「最小限の関連性」があるというためには、被告とカリフォルニア州との間に実質的関係があることが必要であると判断した。そして、同事件において、被告は、カリフォルニア州内に事務所、代理人、従業員、財産を有し、また、広告をしていたことを示す証拠は存在しないこと、製品を同州内に搬入し、これをコントロールしていないこと、また、同州内で販売活動を行っていなかったことなどを指摘した。さらに、被告は、製品がカリフォルニア州に搬入されることを予測しえたとしても、その事実をもって被告と同州との間に最小限の関連性があるとはいえないと判断した。

 他方、その他の4名の裁判官は、自社製品がカリフォルニア州内でも販売されることを被告が認識しておれば、最小限の関連性があると判断した。

 

A その管轄権の主張がフェアプレイと実質的正義に合致すること

 前掲の事件において、連邦最高裁は、この要件は、被告の負担、法廷地の利益および原告の利益を考慮して判断すべきであるとした。そして、本件では、被告の負担が大きいこと、カリフォルニア州の裁判所が裁判する利益は小さいこと、また、原告の利益についても、カリフォルニア州で訴えを提起するのが便宜であることを裏付ける証拠はないとして、フェアプレイと実質的正義の要件は満たされないと判断した。

 以上の点を考慮すると、本件では、Y社は、米国内に支店を持たず、また直接、製品を輸出していないため、米国の裁判管轄は否定されるとも考えられるが、製品が米国内にも輸出されることをYが事前に知っていた場合には、「最小限の関連性」が認められる可能性がある。もっとも、Y社の負担や、米国の裁判所に提訴することの利益が小さいことを考慮すると、米国の裁判管轄を否定するのが妥当であろう。

 

(問題) 上述した米連邦最高裁の判旨と、我が国の最高裁判所の「マレーシア航空事件」判決の判旨と比較してみなさい。

   


[1]    事例につき、東京弁護士会国際取引法部会編「国際訴訟のQA」(商事法務研究会)46頁以下(山川)参照。

[2]    Clte 107 S. Ct. 1026 (1987).






Voice Home Page of Satoshi Iriinafuku