管轄の合意が前掲の要件を満たしている場合には、合意した通りに裁判所の管轄権が発生し、また、消滅する。第3者に対し、合意は効力を持たないが、当事者の一般承継人(例えば相続人)は、合意に拘束される。
管轄の合意によれば管轄権を持たない裁判所に訴えが提起されたときであれ、当事者がそれを争わずに訴訟が進行し、本案判決が下されたときは、控訴審で管轄の合意に違反していることを主張することは許されない。
合意された裁判所が審理すれば、訴訟が著しく遅滞したり、当事者間の衡平に反するとき、裁判所は、他の管轄裁判所に移送することができる(第17条参照)。
消費者契約における管轄の合意
問題 |
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@ |
控訴は東京高等裁判所に提起するという合意は有効か。
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A |
AとBは結婚に先立ち、将来にわたる全ての紛争はXX裁判所の専属管轄に属する取り決めることは許されるか。
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B |
東京地方裁判所を管轄裁判所とする合意が形成されたが、その合意の成立が争われるときは、どの裁判所によって審査されるか。 |
(5) 応訴管轄
本来、管轄権を有さない裁判所に訴えが提起された場合でも、被告がこれに応じれば、受訴裁判所の管轄が生じる(応訴管轄、第12条)。被告が応じるとは、同人が管轄違いの抗弁を提出せず、本案について弁論をするか、または、弁論準備手続において申述することを指す(第12条参照)。被告が本案について弁論ないし申述することが必要であるため、裁判官の除斥・忌避を申し立てたり、訴えの却下を申し立てるだけでは応訴管轄は生じない。
応訴管轄は、受訴裁判所の管轄権を被告が承認することによって、事後的に管轄の合意が成立したとの考えに基づき認められている。
なお、専属管轄に違反し訴えが提起された場合には、被告がこれに応じても、応訴管轄は生じない。ただし、専属的管轄の合意に反する場合には、被告が応じれば、応訴管轄が生じる。例えば、東京地方裁判所を専属の第1審裁判所にするという合意(専属的管轄の合意)に反し、大阪地方裁判所に訴えが提起されたが、被告がこれに応じるならば、大阪地方裁判所に管轄権が与えられる。
(6) 指定管轄
管轄裁判所が、法律上または事実上、裁判を行うことができないときは、「直近上級の裁判所」が管轄裁判所を決定する(第10条第1項)。このように、裁判所によって決められる管轄を
指定管轄 と呼ぶ。「直近上級裁判所」とは、例えば、さいたま地方裁判所の場合は東京高等裁判所、東京高等裁判所の場合は最高裁判所である。
複数裁判所間の管轄区域が明らかでないときも、「共通する直近上級裁判所」によって管轄が決定されるが(第10条第2項)、例えば、前橋地方裁判所と宇都宮地方裁判所の管轄区分が明らかではないときは、東京高等裁判所が両裁判所に「共通する直近上級裁判所」として判断を下す。他方、前橋地方裁判所と仙台地方裁判所の管轄区分が明らかでないとき、それぞれの「直近上級裁判所」は東京高等裁判所と仙台高等裁判所となり、共通ではないから、最高裁判所が「共通する直近上級裁判所」となる。
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