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EU・ECの制裁

国連の旗

安保理決議の実施と司法救済
 
〜 国際テロ対策に関する事例 〜


第1章 EU・ECによる国連安保理決議の実施

 
1. 国際テロ対策に関する国連安保理決議

 2001年9月11日、ニューヨークとワシントンで発生した同時多発テロは、米国だけではなく、世界中に大きな衝撃を与えた。また、一連の攻撃行為は単なるテロではなく、世界平和を脅かす「戦争」として捉えられるようになり、国内外の安全保障政策の抜本的見直しだけではなく、国際法にも新たな課題を突きつけた。国際法上は、特に、軍事的テロ攻撃に対し、どのような措置を、どの範囲で講じることができるかという点について活発に議論されているが、国連は速やかに対応し、同時多発テロ発生の翌日以降、数多くの決議を採択している。本稿に関しては、特に以下の決議が重要である。


安保理決議1267(1999)
 1999年10月15日、安保理は決議1267を採択し、アフガニスタンの領域、特に、タリバンによって支配されている地域がテロリストの隠匿、訓練およびテロ行為の計画のために引き続き使用されていることを確認すると共に、タリバンに対し、ビン・ラディンを遅滞なく引き渡すよう求めた。また、この要請を実現あらしめるため、すべての国に対し、タリバンが所有する航空機等の離発着の禁止や、タリバンが直接または間接的に管理する資金や財源の凍結を義務付けた。さらに、制裁の対象となる者の決定や例外規定の適用などを管轄する制裁委員会(the Al-Qaida and Taliban Sanctions Committee)の設置を決定した。

 この決議を実施するため、EU理事会は、1999年11月15日、共通の立場(Common Position 1999/727/CFSP, OJ 1999 L 294, p. 1 を採択した。また、これを受け、EU理事会は、2000年2月14日、EC条約第60条および第301条に従い、規則(Regulation (EC) No 337/2000, OJ 2000 L 43, p. 1)を制定した。


・安保理決議1333(2000)
 安保理決議1267の内容は、2000年12月19日に採択された決議1333でも確認されると共に、制裁を強化する必要性が確認されている。また、決議1333は、ビン・ラディンや彼に関係するとみなされた人物・組織等の資金や財源を(も)遅滞なく凍結するよう各国に義務付けている。

 この決議を実施するため、EU理事会は、2001年2月26日、共通の立場(Common Position 2001/154/CFSP, OJ 2001 L 57, p. 1)を採択した。また、同年3月6日、EU理事会は、EC条約第60条および第301条に従い、規則(Regulation (EC) No 467/2001, OJ 2001, L 67, p. 1)を制定した(参照)。なお、後に、国連制裁委員会によって、制裁の対象となる人物・組織が特定されたことを受け、同規則の第1附属書にも、これらの者の名前が記載された。この手続はEU理事会ではなく、欧州委員会によって規則が制定され、EU理事会の規則を改正するという形でなされる(Yusuf, para. 25 and Ayadi, para. 29)。


・安保理決議1368(2001)
 同時多発テロが発生した翌日の2001年9月12日に採択された決議において、国連安保理は、テロ行為を最も強い調子で非難するとともに、当該行為を国際平和・安全に対する脅威であるとみなし、すべての国に対して、テロの実行者、組織者および援助者の訴追に協力するよう求めた。 


・安保理決議 1373(2001)
 2001年9月28日、安保理は、各国に対し、テロに対する資金供与の防止、資金提供行為の処罰化、テロ行為者らの資産凍結、自国民等によるテロ関与者への資金提供の防止、テロ行為者の隠匿禁止、テロ行為関連の刑事捜査協力および情報交換などを求めるとともに、実効性確保のために制裁委員会(Sanctions Committee)を設置した。
 
・安保理決議1390(2002)
 タリバン政権崩壊後の2002年1月16日、安保理は決議1390(2002)を採択し、前掲の決議1267(1999)が定める資金凍結を、引き続き、ビン・ラディンや、アルカイダおよびタリバンのメンバー等に対して行うものとした。

 これを実施するため、EU理事会は、2002年5月27日、共通の立場(Common Position 2002/402/CFSP, OJ 2002 L 139, p. 4)を採択した。また、これを受け、EU理事会は、同日中に、EC条約第60条や第301条だけではなく、第308条に従い、規則(Regulation (EC) No 881/2002 , OJ 2002 L 139, p. 9)を制定した(参照)。なお、同規則の第1附属書には、国連制裁委員会によって制裁の対象者に指定された人物ないし組織が列記されている。

・安保理決議 1452(2002)
 2002年12月20日、安保理は決議1452(2002)を採択し、資金や財源の凍結に関し、幾つかの例外を設けた。これによれば、国連加盟国は、人道上の理由に基づき、特定の資金や財源を制裁の対象から除外することができるが、制裁委員会の承諾を必要とする。

 この決議を実施するため、EU理事会は、2003年2月27日、共通の立場(2002/402/CFSP, OJ 2003 L 53, p. 62)を制定し、EC規則にも例外規定を導入するものとした。これを受け、2003年3月27日、EU理事会は新しい規則(Regulation (EC) No. 561/2003、OJ 2003, L 82, p. 1)を採択し、従来の規則(Regulation (EC) No. 881/2002)改正した(従来の規則に例外規定が挿入された)(参照)。
 

 ところで、国連憲章第7章(「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」)に基づき採択された、これらの決議それ自体に執行力はなく、国連加盟国によって誠実に実施されなければならない(国連憲章第25条および第48条参照)。すべてのEU加盟国は国連に加盟しており、安保理決議の実施が義務付けられているが、EUないしECは国連に加盟しているわけではない(また、安保理決議はEUないしECにある特定の行為を要請しているわけでもない)。そのため、EU・ECに対し、安保理決議はどのような法的効力を持つか検討する必要がある。この点に関しては、EU加盟国からEU・ECに安保理決議を実施する権限が(完全にまたは部分的に)委譲されていることが重要であるが(詳しくは こちら)、以下では、この問題について考察する。



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※ 

 このページは、平成平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第12巻第2号(2008年3月刊行予定)に掲載予定の拙稿「EU・ECによる安保理決議の実施と司法救済 〜 国際テロ対策に関する事例の考察 〜」に大きく依拠している。ホームページ上では脚注はすべて削除してあるため、前掲雑誌所収の拙稿を参照されたい。