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リスボン条約
〜 リスボン条約 〜


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リスボン条約が発効しないか、または発効が遅れる場合の法的問題


 リスボン条約は、現行EU・EC法(ニース条約体制)を種々の点で改正しているが、アイルランドの国民投票 の結果を受け、リスボン条約が発効しないか、または発効が遅れる場合、現行法との関係において、特に以下の問題が生じる。


1.欧州議会の議席

 現行EC条約(ニース条約体制)上、欧州議会の議席は、現在、785であるが(参照)、2009年6月の次期選挙以降は、736に削減されることになっている(参照)。ところが、リスボン条約は、750プラス議長1人(合計751)に変更した(参照)。同条約が発効しないと、削減幅は大きくなる。

欧州議会の定数

 New 2009年6月、欧州理事会は、同月の欧州議会選挙以降にリスボン条約が発効するときは、新体制に移行させるため、2014年までの任期中の議席を18増加させることを決めた。これによって、議席総数は754となる(詳しくは こちら)。


      (参照) 欧州議会の議席



2.欧州委員会の定数

 現行EC条約上(ニース条約体制)、欧州委員会のメンバーは、各国より1名ずつ選出されるが(総計27人)、2009年11月に任命される次期委員会からは定数が削減され、もはや各国から1名ずつ選出されない(参照)。これに対し、リスボン条約は、この定数削減を2014年11月以降に任命される欧州委員会からと定める(参照)。つまり、リスボン条約は定数削減時期を5年間遅らせている。各委員は母国のためにではなく、EU・ECの利益のために活動しなければならないため、各国より委員が選出されなくとも、問題は生じないはずであるが、各国にとってみれば、自国民をブリュッセルに派遣する意義は大きく、リスボン条約の発効は重要である。

 なお、現行法は、削減後の定数を特定していないのに対し(参照)、リスボン条約は、加盟国数の3分の2とする(参照)。

 New 2008年12月、欧州理事会は、リスボン条約が発効すれば、同条約に従い、欧州委員会の定数に関する規定を改正することを決定した。これによれば、今後も、各国より1名ずつ選出されることになるが、これは、2008年6月の国民投票でリスボン条約の批准を否決したアイルランド国民の支持を得るための策の一つである。


 なお、リスボン条約によれば、欧州委員会の副委員長の一人は外交・安全保障政策の上級代表となるが(詳しくは こちら)、現行法上、同代表に相当するポストは、EU理事会の事務総長を務めている(詳しくは こちら)。



3.いわゆる 'Smart sanctions' の許容性

 現行EC条約第60条および第301条は、ECが第3国に対し、制裁を発動する権限や手続について定めているが、この規定に基づき、第3国とは関係のない個人に対しても制裁を発することができるかどうかについては争いがある。この問題を解決するため、リスボン条約は、ECの権限について明瞭に定めているが、同条約が発効しないとなれば、法的不安定性が残る(参照)。


   (参照) EU・ECの制裁



 ※ EU理事会の特定多数決

 EU理事会の特定多数決による立法手続について、リスボン条約は「人口を考慮した要件」を導入しているが(詳しくは こちら)、これは2014年11月以降に初めて適用される。また、現行法はこのような要件について全く定めていないため、リスボン条約が発効しないか、または、発効が遅れるとしても(その場合であれ、2014年11月までには発効すると解される)、さしあたり問題は生じない。

 

(2008年 6月 17日 記)