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司 法 制 度 改 革 の 必 要 性


 従来、EC裁判所は、欧州統合を「法の番人」としてだけではなく、「原動力」ともなり推進してきた。その判例法なくして、EC法は実効性を確保しえず、緊密な政策統合も実現しえなかったと解されるが、従来の功績はEC裁判所への信頼を増すだけではなく、その負担を大きくしていった。また、欧州共同体設立から50年、加盟国数が倍増し、潜在的原告が大幅に増加しただけではなく、EC法の爆発的な発展、また、EC裁判所の管轄権の拡大に伴い、申立件数を増加し続け、深刻な訴訟遅延を引き起こしてきた。

 その対策として、加盟国はEU拡大ごとに判事を増員し、また、1988年には第一審裁判所を新設し、EC裁判所の管轄権の一部をこれに委譲してきた。その後、(EC裁判所の負担を軽減したり、司法行政の専門化という観点から)さらに多くの管轄権が第一審裁判所に与えられる一方で、EC裁判所では、裁判部(chamber/chambre/Kammer)やいわゆる小法廷(kleines Plenum)による審理や、また、第一審裁判所では一名の裁判官による審理も認められるようになった。

 しかし、これらの諸策は十分に効果をあげることができず、EC発展や自らの功績の「被害者」である両裁判所のシステムは麻痺状態に近い。特に深刻なのは先行判断手続(EC条約第234条)である。同判断の申立件数は年々増加する傾向にあり、EC裁判所の処理能力を上回っているため、係属件数も年々増加し、1998年は413件(1990年の約2倍)、また、同年に終了した事件の平均係属期間は21.4ヶ月(1990年は17,4ヶ月)にも及ぶ。確かに、裁判所の負担過重・訴訟遅延はECに限られた現象ではなく、むしろ加盟国内の状況の方がより深刻であるとされているが、先行判断手続の遅延は国内手続の遅延につながるため、その改善が不可欠である。また、明白な違法状態を長期間放置しておくことは望ましくない。もっとも、
加盟国はその改善に消極的で、1996年の政府間協議(アムステルダム条約制定に関する協議)では、これを先送りした。逆に、EC裁判所に新たな管轄権を与え、状況をさらに深刻化させることになった。もっとも、これは制度見直しの必要性を再認識させるきっかけとなり、ニース条約の制定会議の主要テーマの一つに挙げられるようになった。
 


(参照)

入稲福 智「ニース条約に基づくEUの司法制度改革 ― 裁判所の負担超過・訴訟遅延対策 平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第7巻第1号(200211月)123155





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