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少 子 ・ 高 齢 化 の 「 時 限 爆 弾 」


 EU内でも、少子・高齢化は、ますます深刻な問題となりつつある。10年後には、戦後の団塊世代(1945〜1955年生まれ)が一斉に「年金世代」となり、高齢者の数が飛おばあさんと子供躍的に増える一方で、出生率は伸び悩んでいる。そのため、2050年には、EU市民(従来の25ヶ国の国民)の2人にひとりは、50歳以上の高齢者層に属すると目されている。

少子・高齢化は、何も急激に始まったわけではなく、以前から、その問題が指摘されてきた。政策権限は加盟国の下に残っており、EU(EC)は具体的な政策を実施しえないが、2006年10月、欧州委員会は、少子・高齢化の「時限爆弾」を除去するための5つの方策を示している(参照)。それらは以下の通りである。


仕事、家庭およびプライベート・ライフのバランス維持を支援し、望むだけ子供が持てる環境を整備すること

高齢者の職業機会を改善すること

高齢労働者と若年労働者の労働力を生かし、生産性や競争力を高めること

移民の労働力を効果的に活用すること

社会保護の長期的実現に必要な公共資源を十分に確保すること


また、2006年10月30・31日、欧州委員会はブリュッセルで専門家フォーラムを開催し、少子・高齢化問題について審議している。この 'Forum on Europe's demographic future' には、加盟国の代表や全ヨーロッパからの専門家(総数約400名)が参加している(参照)。

フォーラムの後、欧州委員会は状況を決して悲観的に捉えてはおらず、むしろ、政策を少子・高齢化に適合させることが重要であるとの見方を示している。また、現在の政策が状況に対応しきれていないことの方が危険であるとしている。このような観点から、委員会は、年金制度改革、家庭と仕事を両立しうる環境の整備、移民労働力の有効活用など、適切な政策の導入・実施を加盟国に要請している。また、ヨーロッパを「沈没」から救うため、以下の5つの対処策を提案している。



人口構造の改善
 この点に関し、フランスやスカンジナビア諸国は模範的とされる。

労働の評価
 早期退職を奨励・強要する政策を見直し、生涯教育を推奨や高齢者の差別禁止に努めること

生産性と労働力の向上
 高齢者の需要に応じうる商品やサービスを開発し、世界市場をリードすること(インドや中国といった人口増加国でも高齢化は進展している)

移民の統合に備えること
 15〜20年後、移民ブームが再到来すると考えられるが、移民はEU内の労働力不足を補いうる。現在、移民政策は加盟国間でばらつきが見られるが、社会制度を整備し、移民の統合を容易にすべきである。

健全な公共財政
 将来、大半の加盟国は社会福祉制度を賄いきれない状況に陥ると欧州委員会は予測しており、その対処策として、個人年金(私的年金)や企業年金の拡充、また、雇用率の向上(つまり、年金積立者の増加)に力を入れるべきである。

 

前述したように、少子・高齢化政策に関する基本的な権限は加盟国の下に残っているため、具体的な政策決定・実施は、加盟国の裁量に委ねられている。これを支援するため、欧州委員会は、2年毎にフォーラムを開催するとしている。




(参照) 欧州委員会のプレスリリース

 ・少子・高齢化対策

 ・2006年10月のフォーラム

Vertretung der Europäischen Kommission in Deutschland, EU-NACHRICHTEN 2006, Nr. 41, Seite 4 ("Die demografische Zeitbombe entschärfen")




高齢化社会における経済発展

EUの社会政策

EU内の少子・高齢化対策

(2007年 2月 27日 記)