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E U 内 の 出 産 ・ 育 児 休 暇 制 度

母子

 働く女性が増加する一方で、出生率は低下しており、人口構造(少子高齢化)や家族形態が大きく変化している。このような状況下、我々は、仕事と家庭生活のあり方について再検討する必要性に迫られているが、手厚い社会保障は企業の競争力を弱めかねない。そのため、個々の国単位だけではなく、EUレベルでも、ワーク・ライフ・バランスについて審議する必要性が過去20年来、強く認識されている。社会政策に関する基本的な権限は加盟国の下に残っているとはいえ、EU(厳密にはEC)は、ソーシャル・パートナーとも協議しながら、一連の法令を制定しているが(1)、その概要は以下の通りである。

 

1.出産休暇(Maternity leave)

妊娠中の労働者や、近時、出産したり、授乳を行っている労働者を保護するため、EC(当時はEEC)は、1992年10月、指令(Directive 92/85/EEC)(2) を制定し、出産休暇を最短でも14週間としなければならないと定めた。また、上記の者が職場で健康かつ安全に勤務することができるよう、指令は幾つかの要件を定めている。なお、この指令は、労働者の健康と安全を保護する目的で制定されているため (3)、父親や養親には適用されない。これらの者の育児休暇は、他のEC法によって保護されることになるが、2002年に制定された指令(Directive 2002/73/EC)(4) は、父親や養親の育児休暇について、加盟国が独自に規定を設けることができると定めている。なお、加盟国が実際にこのような権利について定めるときは、育児休暇を取ったことを理由に解雇されたり、職場復帰が困難になるような状況から労働者を保護する規定を設けなければならない。


2.育児休暇(Parental leave)

欧州委員会との話し合いの後、EU内の3つのソーシャル・パートナー (5) は、育児休暇に関する枠組み協定を採択している。後に、この協定は、EU理事会が制定した指令(Council Directive 96/34/EC)(6) に添付されているが、@ 子供の出生または養子縁組後、子供がある一定の年齢(8歳を上限とする)に達するまでの期間中、労働者は、少なくとも3ヶ月の育児休暇をとることができること(詳細な要件および給料の支払いの有無については、加盟国やソーシャル・パートナーによって定められる)、また、A 家族が疾病または事故にあい、労働者が直ちに世話をしなければならない場合には、職務を免除されうることについて定めている(その期間や取得条件の詳細は、加盟国やソーシャル・パートナーによって定められる)。



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◎ 加盟国内の状況

 前掲の指令や枠組み協定は、出産・育児休暇、また、家庭生活に関するやむをえない事由に基づく職務免除に関し最低限の基準を定めており、詳細は加盟国ないしソーシャル・パートナーによって確定される。個々の加盟国の制度は大きく異なっているが、以下のように概括することができる。

出産休暇については、指令が定める最短期間(すなわち、14週間)をそのまま採用する加盟国はむしろ例外的で、多くの国は、それ以上の休暇を補償している。例えば、チェコやスロバキアは28週間、また、イギリスは、ある特定の状況下では最長52週間としている(なお、全期間において給料が支払われるわけではない)。

育児休暇についても、3〜4ヶ月とする加盟国や、3年とする加盟国(チェコ、スロバキア、フランス、ドイツ、ポーランドなど)など、大きく異なっている。なお、多くの国では、休暇中でも給料が支払われている(ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、チェコ、スロバキア、バルト3国など)。

多数の加盟国では、指令が定める以上に、労働者が厚く保護されている。例えば、以下の点が挙げられる。


父親が定められた最短期間の休暇を取る場合には、出産・育児休暇の全期間が延長される(フィンランド、イタリア、オーストリアなど)。

母親だけではなく、父親も出産休暇を取得しうる(デンマーク、フランス、ラトビア、ルクセンブルク、スウェーデン、イギリスなど)。

母親の出産休暇に準じた養子縁組休暇が認められる(キプロス、ポーランド、マルタ、スロベニア、スペインなど)。

授乳のために職務免除を請求する権利が法律で保障されている(オーストリア、ドイツ、エストニア、アイルランド、リトアニア、スロバキアなど)。

子供や世話を必要とする家族が病気に際しては、特別休暇を請求しうる(ベルギー、ギリシャ、ハンガリー、スウェーデンなど)。


親であることを理由にした差別は禁止される(フィンランド、ハンガリー、オランダなど)。




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(1)

See Communication from the Commission: First-stage Consultation of European Social Partners on Reconciliation of Professional, Private and Family Life, SEC(2006) 1245

(2)

OJ L 348 of 28 November 1992, p. 1.

(3)

この指令は、EC条約第137条(当時の第118a条)に基づき制定されているが、この規定は、職場における労働者の健康と安全を改善するため、EU理事会は法令を制定しうると定めている。

(4)

Directive 2002/73/EC amending Directive 76/207/EEC on the implementation of the principle of equal treatment for men and women as regards access to employment, vocational training and promotion and working conditions, OJ L 269 of 5 October 2002, p. 15.

(5)

Union of Industrial and Employers' Confederation (UNICE), European Centre of Enterprises with Public Participation and of Enterprises of General Economic Interest (CEEP) and European Trade Union Confederation (ETUC)

(6)

OJ L 145, 19 June.1996, p. 4.

 



(参照) Communication from the Commission: First-stage Consultation of European Social Partners on Reconciliation of Professional, Private and Family Life, SEC(2006) 1245, pp. 4-6.

kinder.de のサイト


高齢化社会における経済発展

EUの社会政策

(2007年 2月 27日 記)