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ド イ ツ の 少 子 化 対 策


リストマーク はじめに

 EU最大の経済力と人口を誇るドイツは、同じく最大の少子・高齢化問題に直面しており、近時は経済への影響も懸念されている。人口構造の変化、とりわけ、出生率の低下は産業形態が大きく変わり、女性の社会進出が台頭した1970年代に急速に進み、何も新たに生じた問題ではない。また、ドイツに限った現象ではなく、近隣のヨーロッパ諸国でも一様に見られるが、いくつかの国で状況が改善しているのとは対照的に、ドイツの出生率は伸び悩んでいる。その主な要因の一つとして、伝統的な子育て理念を指摘することができる。つまり、ヒトラー政権下(1933〜1945年)の積極的な出生政策を反省し、戦後は、子育ては家庭で行うべきとする考えが深く浸透している。その結果、育児所や全日制の幼稚園・学校(伝統的なドイツの教育施設は半日制であり、子供は家庭で昼食を取り、午後を家庭で過ごす)の整備に著しく遅れている。

 直近の国政選挙(2005年9月)の際にも、少子・高齢化問題が大きく取り上げられることはなかったが、近時は、社会制度(特に年金制度)だけではなく、経済に与える打撃(人口ないし労働力の減少に伴う経済力の低下)がますます強く懸念されるようになり、選挙後に発足した Merkel 政権は、半世紀にわたるドイツ家族政策の改革に本腰を入れるようになった。新しい方針は、社会政策としての性質だけではなく、経済成長や雇用創出という経済政策的側面をも併せ持っており、少子・高齢化現象そのものよりも大きな問題をドイツ社会に投げかけている。特に、2007年1月に発効した親手当て(Elterngeld)に関する法律や審議中の託児所の倍増計画は、伝統的な家族観ないし子育て観にメスを入れるものであり、波紋を広げている。

 現在、少子化対策は、ドイツだけではなく、ヨーロッパ全体の重要課題となっており、ドイツもEUの政策の影響を少なからず受けている。このレポートでは、これらの点にも触れながら、第2次世界大戦後のドイツの少子化対策を概観し、また、新しい プログラムについて検討する。



参照 〔参照〕


ドイツの出生率の動向に関する邦文文献として、原俊彦「ドイツの出生動向と家族政策」『北海道東海大学紀要人文社会科学系』第13号(2000年)149〜175頁を参照されたい。

Das Gesetz zum Elterngeld und zur Elternzeit (Bundeselterngeld- und Elternzeitgesetz - BEEG) vom 5. Dezember 2006, BGBl. I S. 2748 ff. この法律について、この法律について、齋藤純子「『育児手当』から『親手当』へ − 家族政策のパラダイム転換」外国の立法229(2006年)164〜170頁を参照されたい。



 このレポートは、平成国際大学社会・情報科学研究所編『平成国際大学社会・情報科学研究所論集』第7号(2007年)に掲載される予定の拙稿に基づいている。脚注については、同雑誌を参照されたい。




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