1. 組織
EUは
欧州議会(European Parliament)と呼ばれる議会を持つ。その議員は加盟国単位で欧州議会選挙が実施され、選出されるが、この選挙は比例代表制によることがEU法で定められている。そのため、立候補する者は政党に所属していなければならない。
なお、この政党は国境を越えて統合されているわけではない。例えば、今日でも活動している政党の中で、最も歴史のある社会党・労働党系の政党は、加盟国では以下のように異なっている。
これらの政党や他の加盟国における中道左派政党は、欧州議会では、
社会・民主主義者の進歩同盟(S&D)というグループを結成し、活動している。
1999年5月以降、最も大きな政党グループとなっていのは
欧州人民党(EPA)であるが、それには以下の政党が所属している。
なお、欧州人民党(European People's Party) という名称は、それが政党であるかのような印象を与えるが、実際は、政党というよりも、加盟国内で結成されている政党のグループである。欧州議会での活動を主たる目的としているが、EUの枠組みを超えた活動もなされている。
EU法は、国境を越えて統合された、このような政党グループを「欧州規模の政党」(political parties at Eurpean level)ないし「ヨーロッパ政党」(European
political parties) と捉えている(EU条約第10条第4項)。しかし、それらは厳密には、加盟国内で設立された政党のグループである。そのため、「政党」という表現は誤解を招きかねない。
2021年5月現在、欧州議会では、上掲の2つの政党グループを含め、7つのグループが活動しているが、それらは以下の通りである。
グループを結成するには、少なくとも23人の議員が必要であり、かつ、少なくとも4分の1の加盟国出身の議員が所属する必要がある。
また、欧州議会選挙で少なくとも3%の票を獲得しなければ、グループとして認められない。
2. 役割・責務
ヨーロッパ規模で結成される、この政党グループは、EU統合を推進する重要な要素の一つであり、EUとしての意識や世論形成に貢献するものとされる。特に、欧州議会自身の強い要請に基づき、1993年11月発効のマーストリヒト条約では、この点が明瞭に謳われるようになった(現行EU条約第10条第4項参照)。
実務において、ヨーロッパ政党グループは、議会審議における立場を確立したり、欧州議会選挙の論点・マニフェストを作成している。
なお、各グループの主張・マニフェストは、EU統合を支持するものでなくてもよい(
参照)。
3. 欧州委員会のポスト
EUの行政機関である欧州委員会は、加盟国政府(厳密には欧州理事会)によって任命されるが、その委員長の指名には、欧州議会選挙の結果が考慮されなければならない。詳細には、直前の欧州議会選挙で最も多くの議席を獲得した政党グループに属する者の中から、委員長が選ばれる(EU条約第17条第7項)。
この制度は、2009年12月に発効したリスボン条約によって導入されたが、それを踏まえ、新制度下で最初に行われた欧州議会選挙(2014年5月の選挙)では、各政党グループが筆頭候補を擁立し、選挙で勝ったグループの筆頭候補が欧州委員長になるという構想が立てられた。そして実際に、選挙で勝利を収めた欧州人民党(EPA)の筆頭候補が次期欧州委員長となった。その人物は、ルクセンブルク首相の経歴を持つジャン=クロード・ユンケル(Jean-Claude
Juncker)であったが、彼は筆頭候補とはなったものの、立候補していたわけではなかった。つまり、あくまでも、次期欧州委員長のポストを獲得するために筆頭候補となった。
なお、委員長候補を指名し、そして最終的に任命するのは加盟国政府(欧州理事会)であり、欧州議会ではない。加盟国政府の中には、ユンケルの委員長就任に反対する者もいたが(特に、当時のイギリス首相デービット・キャメロン)、多数決により(EU条約第17条第7項参照)、ユンケルが選ばれた。
(参照)
Spitzenkandidaten: the underlying story
ところで、欧州委員長は再任が認められている。しかし、ユンケルは再任を辞退したため、次の欧州議会選挙(2019年5月)でも、議会は、選挙に勝ったグループの筆頭候補が次期委員長になるという構想を採用した。特に、欧州人民党(EPA)の筆頭候補マンフレッド・ウェーバー(Manfred
Weber)は、次期委員長になるという意思を明確に示していた。しかし、欧州人民党が第1党となったにも拘わらず、彼が委員長に指名されることはなかった。背後には、フランスのエマニュエル・マクロン
(Emmanuel Macron)大統領の強い反対があったとされているが、マクロンは、委員長になる者は加盟国の首脳としての経歴を持つべきという持論を展開していた(
参照)。なお、欧州人民党は、第1会派とはなったものの、議席数を減らしていたことや、2014年5月とは異なり、欧州議会も委員長候補を絞り、加盟国政府に圧力をかけることができていなかったことも指摘することができる。
(参照)
2019年の欧州議会選挙
このような事情があるとはいえ、欧州委員長の指名に議会選挙結果、換言するならば、EU市民の声が反映されなかったことは、EU内、特に、マンフレッド・ウェーバーの祖国であるドイツで強い反発を招いた(
参照)。また、数度の会談の後、加盟国政府が委員長に指名したのは、同じドイツ出身のウーズラ・フォン デア ライエン(Ursula von der Leyen)
であったことも、ドイツ国内での議論を過熱させた。なお、当時、ドイツの国防相を務めていたフォン デア ライエンは、欧州議会選挙に立候補していないばかりか、委員長候補としては想定外の人物であり、ドイツ首相のアンジェラ・メルケル(Angela
Merkel)は、この人選を支持していなかった(
参照)。ウェーバーにとっても、受け入れがたい決定であったが、フォン デア ライエンは同じ政党グループに属し、グループ内の対立は望ましくないこと、また、EU人事に対する批判ないしEU内部での対立は、EUに対する市民の信頼・評判を損ねる結果になるため、承服せざるをえなかったと解される。
なお、この人事は、EUの主人は加盟国政府であり、EUは「上からの統合」であることを如実に示している。
加盟国首脳(欧州理事会)によって指名されたフォン デア ライエンが正式に委員長に選出されるには、欧州議会の承認が必要であるが、そのために必要な議員の過半数をわずか9つ上回り、フォン
デア ライエンは委員長に選出された(参照)。