スポーツに関する紛争の態様

 学校の授業や課外活動、一般人の生活、また、プロスポーツ選手の試合など、スポーツはさまざまな場面で行われている。そして、その最中やスポーツ活動に関し、さまざまな問題や紛争が発生する。例えば、以下のケースについて考えてみよう。



ケース① 民間団体が所有・管理する体育館を予約していたが、団体側の落ち度により利用できなくなった。予約者は団体に、どのようなことを請求できるか。


ケース② プロゴルフ選手のAはフィットネス・トレーナーを雇い、指導を受けていたが、トレーニング中にけがをして試合に出られなくなった。Aがトレーナーの責任を追及したところ、トレーナーはそれを認めず、争いになった。Aが治療代の支払いを求めて裁判所に提訴するとき、Aは何を主張しなければならないか(主張責任、証明責任)。


ケース③ テニス選手のBは試合中、かっとなってラケットを投げつけたところ、観客にあたり、けがを負わせた。負傷した観客がBに損害賠償(例えば、治療代)を求めたところ、Bはわざとやったのではないと述べ、損害賠償の支払いを拒んだ。Bの言い分は認められるか。

  Bは損害賠償を払わされるだけではなく、傷害(第204条)の罪で起訴され、刑事罰を科されることもあるか。

 被害を受けた観客が告訴しなければ、Bは刑事罰を科されないか(民事責任と刑事責任、または民事上の問題と刑事上の問題)。

  • 法律問題は「民事」と「刑事」に分かれる。刑罰に関するのが「刑事」であり、それ以外の問題は「民事」である。

Bに刑事罰を科すのは誰ないしどの機関か。


ケース④  ボクシングの試合中、Cの強打によってDは脳震盪を起こし、後に死亡した。Dの遺族がCに慰謝料の支払いを求めたところ、Cは、ボクシングの試合で相手を殴るのは当然であり、自分に落ち度はないと反論した。Cの主張は正しいか(民事責任)。

 Cは殺人罪で罰せられるか(刑事責任)。


ケース⑤  野球の試合中、雷が落ち、選手が負傷した。選手が主催者と球場の管理者に治療代の支払いを求めたところ、両者は自分たちの責任を否定した。両者は自然災害を理由に治療代の支払いを拒否できるか。


ケース⑥ あるスポーツクラブの入会申込書には、施設の利用中、クラブの故意または過失に基づき事故が発生しても、クラブは責任を負わないとする規定が入っていた。Eはそれをしっかり読まず、クラブに入会し、クラブ内でトレーニングをしている時に骨折してしまった。Eはクラブの責任を追及することはできないか。

  Eが入会申込書をしっかり読み、クラブが責任を負わないことを認識していたとすれば、違いが生じるか。


ケース⑦ 小学生が校庭でサッカーボールを蹴っていたところ、別の生徒にあたり、かけていた眼鏡が割れた。サッカーボールを蹴った小学生またはその親はどのような責任を負うか。


ケース⑧ 公立学校の体育の授業中、生徒が転んで骨折した。生徒の親が学校に治療代の支払いを求めたところ、学校はそれに応じず争った。
 
  公立学校と私立学校では違いが生じるか。

  治療代を払う必要がある場合、払わなければならないのは学校か、体育の教員か、または、その他の組織ないし個人か。

  体育の授業の内容(例えば、ダンスを教えていたか、騎馬戦を行っていたか)で違いは生じるか。


ケース⑨ 跳び箱を使った体育の授業中、跳び箱が崩れ、生徒が骨折した。学校、指導していた教員、跳び箱を製作したメーカーのいずれが責任をとるべきか、または誰も責任を負わなくてよいか。


ケース⑩ Fはランニングシューズを履き、練習していたところ、シューズには欠陥があり、けがをしてしまった。Fがシューズを購入したショップにクレームをつけたところ、ショップは、悪いのはシューズを作ったメーカーだと述べ、自らの責任を否定した。ショップの主張は正しいか。


ケース⑪ Gは性別、国籍、人種、性的志向または障害を理由に、スポーツ大会への参加を禁止された。Gは大会主催者側の、この決定の取消しを求め、裁判所に訴えることが許されるか。また、Gが大会主催者に慰謝料の支払いを求め、提訴することは認められるか。


ケース⑫ スポーツ選手のHは指導者からハラスメントを受けた。Hは誰に相談すればよいか。


ケース⑬  サッカー選手のIは、所属するチームより他のチームへの移籍を禁止された。Iはそれに従わなければならないか。

  Iがプロのサッカーチームに所属しているか、アマチュアのチームに所属しているかで違いは生じるか。


ケース⑭  Jは競技で優秀な成績を収めていたにもかかわらず、代表選手に選ばれなかった。Jは選考決定の見直しを求め、裁判所に訴えることも認められるか。


ケース⑮ Kは所属するスポーツ団体の規則に違反したという理由で、処分を受けた。Kがそれに納得せず、異義を申し立てるには、どうすればよいか。


ケース⑯ 審判の判定をめぐって争いが生じたとき、当事者は裁判所に訴えることができるか。


ケース⑰ あるスポーツ団体の内部規約に、紛争が生じたら、裁判所に訴えてはならず、仲裁で解決するという規定が入っていた。このような規定は有効か。



検討  これらの紛争ないし問題は、法令を適用し、解決できる法的紛争・法律問題と、そうではないものに分けることができる。なお、明確に分けられないものや、両方に属するものもある。

1)法的紛争・法律問題(法令を適用し、解決できるもの)
 ①~⑫、⑬、⑯、⑰

2)法的紛争・法律問題にはあたらないもの
 ⑬~⑯

 法令とは、国会(議会)が制定する法律と行政機関が制定する命令を合わせて法令と呼ぶ。地方公共団体が制定する条例もこれに含める場合があるが、学校やスポーツ団体などが定める規則は法令に含まれない。

  → スポーツのルールは法令ではない!

  法令(法律、命令、条例)には様々なものがあるが、上掲の法的紛争・法律問題には、特に、以下の法令が適用される。

 ケース  法令
 民法
 民法、民事訴訟法
 民法、刑法、刑事訴訟法
 民法、刑法
 民法
 民法、消費者契約法
 民法
⑧、 ⑨   民法、国家賠償法
 民法、製造物責任法
 憲法
 憲法、条例(条例が制定されている場合)
 憲法
⑯、⑰   民事訴訟法 

 法令は、権利・義務や法律関係について定める実体法と、紛争解決手続について定める手続法に分けることができる。

1)実体法
 権利・義務や法律関係について定めている。
 例)憲法、民法、刑法

2)手続法
 紛争解決手続について定めている。
例)民事訴訟法、刑事訴訟法、仲裁法

 この授業、つまり、「スポーツと法Ⅱ」では、手続法について説明する。詳しくは、②、⑯、⑰のケースで生じた問題について解説する。他方、①~⑬のケースで生じた実体法上の問題は、「スポーツと法Ⅰ」の対象である。

 なお、紛争解決手続は「民事手続」と「刑事手続」に分けられるが、この授業では「民事手続」について説明する。

1)民事手続
 私人間の紛争を解決するもの、その他、刑事手続にあたらないもの

2)刑事手続
 刑事罰を決定する手続

 つまり、この授業では、上掲の②、⑯、⑰のケースで生じた問題について説明する。




紛争解決手続
検討

 上掲の紛争を解決する手続は「民事手続」と「刑事手続」に分けられるが、この授業では「民事手続」について説明する。

1)民事手続
 私人間の紛争を解決するもの、その他、刑事手続にあたらないもの

2)刑事手続
 刑事罰を決定する手続

 つまり、この授業では、上掲の②、⑯、⑰のケースで生じた問題について説明する。


 ところで、スポーツに関する紛争・問題を解決する方法としては、以下の方法が考えられる。

  • 裁判所に訴える。
  • 弁護士に相談する。
  • 競技団体が紛争解決機関・手続を設けている場合は(例えば、日本サッカー協会は不服申立委員会を設置している)、それを利用する。
  • 日本スポーツ法支援・研究センター、日本体育協会などの相談窓口・相談室を利用する。

  また、争いが国際的であるか否かを問わず、以下の国際的な紛争解決機関に訴えることができる。


 このように、スポーツに関する紛争を解決する方法として、様々な手続(機関・団体の利用)が考えられるが、一般に裁判所に訴えを提起するのは、最後の手段である。つまり、他の手続を利用しても紛争が解決されなかった場合に、裁判所に提訴することになるが、それは①形式・格式、②費用、③迅速性等の点で、裁判は一般市民に身近な存在とは言えない点にある。裁判とその他の手続には、その他にも、以下の違いが存在する。


リストマーク 裁判とその他の紛争解決手続の違い

 なお、裁判所に訴えが提起される場合、裁判所は法令を適用し、判断を下す。別の観点から捉えるならば、法令を適用し、解決できない紛争・問題(例えば、⑭~⑯のケースで生じた問題)は裁判所に訴えを提起しても、裁判所は扱ってくれない(裁判所は訴えを却下する)。

 これに対し、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)や競技団体が設置する紛争解決機関は、主として、法令ではなく、スポーツのルールやスポーツ団体の内部規則に照らし、判断する。このような判断は、法令に基づいていないため、法的判断にはあたらない。

 この授業、つまり、「法とスポーツⅡ」では、スポーツに関する法律問題を解決する手続、つまり、裁判手続について説明する。


今日の小テスト

(注意)小テストの解答は9月25日(金)17時までに提出してください。






この科目は「民事訴訟法」に関連しています。


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