トルコのEU加盟問題


 トルコは、小アジア半島(アナトリア)にある国であるが、小アジアとヨーロッパをつなぐ架け橋のような形をした地域にも領土を持っている。特に、その地域にあるイスタンブールはヨーロッパに属していることから、トルコはヨーロッパの国に分類されている。なお、イスタンブールは、かつて東ローマ帝国の首都であり、当時はコンスタンティノープルと呼ばれていたが、トルコの前身であるオスマン帝国は、1453年、この地を攻略し、東ローマ帝国を滅ぼした。

 オスマン帝国は、君主(スルタン)がイスラム教の最高指導者(カリフ)を兼ねるスルタン・カリフ制度を完成させ、アラビア半島だけではなく、バルカン半島やハンガリーを含むヨーロッパ、北アフリカ、クリミア半島にまたがる広大な領土を誇った。しかし、第一次世界大戦の敗戦を機に弱体化し、実質的に崩壊した。そして、敗戦後の1922年11月、ムスタファ・ケマル将軍によって正式に解体され、翌23年10月、トルコ共和国の樹立が宣言された。なお、新国の初代大統領となったケマルは、政教分離、つまり、非イスラム化を柱とする近代化を推進した。そのため、後に議会から「アタテュルク」の称号を与えられたが、それは「父なるトルコ人」を意味する。

 第2次世界大戦後、トルコは、西側の軍事組織であるNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、ヨーロッパの一員として重要な役割を果たすようになった。

 1987年4月、トルコはEU加盟を申請するようになった。なお、すでに1963年には、EU・トルコ間で連合協定が締結され、トルコのEU加盟に向けた政策協力が行われているが、EU加盟という目標はいまだ実現していない。なお、トルコよりも後に加盟申請した東欧諸国の方が、先に目標を達成するという逆転現象が生じている。また、トルコの加盟交渉が進展していないことは、大きな注目を集めているが、それは以下のような点に基づいている。

 ①地理的問題
  トルコの国土の大半はヨーロッパではなく、アジアに位置する。

 ②経済的問題
 トルコの経済力は弱く、農業従事者が多いため、EU加盟が実現した場合には、現加盟国の負担が増える。

 ③国の規模に関する問題
 国土や人口面でのトルコはヨーロッパ諸国の規模を凌駕している。そのため、トルコの影響力拡大が懸念されている。

 ④文化・宗教上の違い
 トルコはイスラム教宗主国ではないが、近年、国政の保守化とともに、政治と宗教の結ぶときが強まっている。
 他方、ヨーロッパは、キリスト教ないしユダヤ教を精神的基盤に据えており、トルコとの文化的・精神的違い(一体性の欠如)が指摘されている。

 2020年11月、フランスの学校でイスラム教の指導者の風刺画を生徒に見せた教師が過激なイスラム教徒に路上で殺害されるという事件が起きたが、その後、フランスの Macron大統領が、フランスは表現の自由(風刺画を発表する自由)を擁護すると主張すると、Erdogan大統領は、Macronは精神治療が必要だと述べた。この発言はヨーロッパ諸国から批判されている。

 なお、トルコのEU加盟問題に関しては、宗教上の問題がクローズ・アップされがちであるが、これまでEU加盟国は、トルコが伝統的にイスラム教であることを理由に加盟を断ったことはない。

 ⑤ 司法制度の不備、人権問題
 トルコの司法制度は、依然として西欧法治国家の水準に達していないことが問題視されている。特に、国家治安裁判所の権限、管轄および実務、防御権の水準、また、警察や司法当局による暴行・拷問が批判の対象になっている。

 なお、2002年にErdogan 政権が成立して以来、国家による人権侵害はなくなっており、Amnesty International も拷問は、もはや制度的に行われていないとしているが(反対の見解として、こちら を参照)、国内の人権保護団体からの批判は止まない 。

 2016年7月、トルコ軍の一部がクーデターを起こし、Erdogan大統領の暗殺を企てた事件が発生した後は、クーデータの阻止を名目に、報道や発言の自由が制約されるようになった。その一環として、ヨーロッパ人ジャーナリストが逮捕・拘束されており、EU加盟国から厳しく批判されている。

 ⑥トルコの非民主化
 Erdogan政権が長期継続するのに伴い、トルコは非民主化され、EUや加盟国より批判されている。

 ⑦キプロス問題
 トルコのEU加盟を阻むその他の要因として、キプロス問題が挙げられる。1974年、キプロスでクーデターが生じた際、トルコは軍隊を派遣して島の北部を占領し、キプロス・トルコ共和国を樹立している。他方、島の南部には、ギリシャ系の住民からなるキプロス共和国が建国されており、島が2分されている状況は現在まで続いている。北のトルコ系キプロスを承認しているのはトルコのみであり、国際的に孤立しているが、南のギリシャ系キプロスは、2004年5月、EUに加盟している。現行EU法上、第3国のEU加盟には全加盟国の承認が必要とされるため、ギリシャ系キプロスの同意なくして、トルコの加盟はありえない。したがって、トルコがギリシャ系キプロスの独立性を承認し、南北問題が解決されることが、実質的な加盟要件になるが、これは従来の加盟要件(いわゆるコペンハーゲン基準)の中には含まれていない。既存のルールを一方的に変更するのは公正さに欠けるとする見解もトルコ政府の中にはあるが、失当である。なぜなら、第3国の新規加盟には、全加盟国の承認を必要とするというEU条約上の要件に含まれるためである。

 近年は、キプロス沖の油田をめぐり、トルコ・キプロス(ないしギリシア)間に新たな対立が発生している。


(参照)トルコのEU加盟問題
 

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