1. 背景
一般に、バナナは熱帯地方で栽培されているが、EU内の南部地方でも、収穫することができる。もっとも、その量は限られており、伝統的に各国は、海外からの輸入に頼っている。その仕入先(輸出国)には違いがあり、果実の値段や品質も大きく異なっているが、ひとたび
EU 内に輸入されると、域内で自由に流通される。そのため、価格や品質に劣るバナナは駆逐されることになる。具体的には、植民地支配や連合関係など、いくつかの加盟国と結びつきの強いアフリカ、カリブ海、太平洋諸国(その頭文字をとって、ACP
諸国と呼ばれる)のバナナが市場から締め出されてしまうということである。また、EU
産のバナナも同様に競争力が弱く、温暖な気候条件とアメリカ資本の下で大量生産される中南米産バナナから保護する必要がある。そのため、1993年2月、EC
は中南米産のバナナの輸入を制限する規則を制定した。なお、ECが、ACP諸国からの輸入を優遇するのは、EC・同諸国間で締結された「ロメ協定」に基づいている。
この中南米諸国に不利な輸入制度をめぐっては、EU 内外で激しく議論されている。特に、1995年に発足したWTOの紛争処理委員会は、協定違反を認定した上で、EC
に改正を勧告し、注目を集めていたが、現在まで、EC はこれに従っておらず、米国の制裁を甘受している。
2.EU 拡大後のバナナの需要増に対応させた輸入量増加
WTO 法上は、アフリカ、カリブ海、太平洋諸国からの輸入品には関税を課さないが(または、低率とする)、中南米諸国からの輸入品には、高率の関税を課すといった差別的性格の他に、輸入量が実質的に制限されている点が問題になる。この輸入量は、EU
内における供給と需要を考慮して決定される。そのため、オーストリア、フィンランドとスウェーデンの
EU 加盟(1995年)に伴う需要の増加などを理由にこれまでも暫時、引き上げられてきたが、東方拡大(2004年5月1日)を前に、欧州委員会は、輸入量をさらに増加させることを決めた。追加量は、新加盟国における従来の消費量を基に算定されるが、具体的な数値はまだ定まっていない。なお、2006年1月1日からは、この数量割当を撤廃し、関税のみを課すことになっているが、現在、検討されている輸入量の割り増しは、これに影響を与えないとされている。
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