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EU・ECの制裁

国連の旗

安保理決議の実施と司法救済
 
〜 国際テロ対策に関する事例 〜

 

Case T-253/02, Ayadi v. Council [2006] ECR II-2139 (Case C-403/06 P)


訴え提起:2002826 
1審裁判所判決(請求棄却):2006712

EC裁判所に控訴:2006927日(2008216日現在、係属中)



 本件の原告である Ayadi (チュニジア人)は家族と共にアイルランド国内に居住しているが、国連制裁委員会(Sanction Committee)によって、ビン・ラディンと関係のある人物に指名された(para. 28)。これを受け、欧州委員会はEU理事会規則(Council Regulation (EC) No. 467/2001, OJ 2001, L 277, p. 25)を改正し、原告を制裁対象者リストに追加した(para. 29)。後に、このEU理事会規則は廃止され、新しい規則(Council Regulation (EC) No 881/2002[1])が制定されているが、原告の名前は、新規則の制裁対象者リストにも記載された。新規則に基づき、アイルランド当局は原告の銀行口座を凍結したため、同人は、理事会規則の有効性を争い、EC1審裁判所に提訴した(see para. 60)。 


訴えの理由として、原告は、@補完性の原則と比例原則の違反、また、A基本権(財産権(欧州人権条約第1議定書第1条)、司法救済を受ける権利(人権条約第6条)、人権条約第3条及び第8条)の侵害(paras. 93-)を挙げている。



リストマーク 財産権の侵害

EU理事会規則の財産権侵害について、原告は、確かに、アイルランド当局は、原告の基本的な生活費を負担してくれたが、通常の社会生活を送ることはできなくなっただけではなく、経済活動を営むことも不可能になった(タクシー運転手としてのライセンスの取得や自動車を借りることもできなくなった)と主張している(para. 100)。

この点について、第1審裁判所は、理事会規則や安保理決議は満足のいく私生活を妨げるものではないこと、また、住宅や自動車など、日常生活に必要である限り、それらに必要な資金を凍結するものでもないこと(para. 126)、さらに、経済活動を禁じるものでも(para. 127-128)、タクシー運転手のライセンスや自動車を借りることを禁止しているわけではないと判断し(paras. 130-131)、原告の主張を退けている。



リストマーク 司法救済を受ける権利の侵害

原告の銀行口座の凍結は、EU理事会規則に基づき実施されているが、同規則は国連安保理決議を置き換えたものである。つまり、制裁の内容や対象者は安保理(ないし国連制裁委員会)によって決定されているが、安保理決議は、制裁によって被害を被った者に訴権を保障していない。また、国際裁判所や国内裁判所の管轄権について定めていない。これが司法救済を受ける権利の侵害にあたるかという点について、第1審裁判所は、すでに、Yusuf 事件判決(paras. 276 et seq.)とKadi事件判決(paras. 225 et seq.)において、権利侵害(強行法違反)を明瞭に否定しているが、両判決を踏まえた上で、原告は、以下の理由により、同様に判断してはならないとする。 

@

原告の資金は一時的に凍結されているというよりも、没収されている。

A

安保理による制裁の見直し手続が実効的ではないため、原告の資金は生涯、凍結される危険性がある。原告はアイルランド当局に2度も制裁の見直手続の開始を書面で申請したが、当局の反応は鈍い。



これらの点について、第1審裁判所は、以下のように判断している。


@

理事会規則や安保理決議は、そのような性質のものではない(paras. 129, 135)。また、原告は自らの主張を裏付ける証拠を提出していない(para. 136)。

A

確かに、国連制裁委員会は全会一致で判断を下すが、見直申請手続の実効性は、ガイドライン第8条第b号〜第e条だけではなく、国連加盟国や制裁委員会がガイドラインの誠実な実施を義務付けらていることによって保障される(para. 142)。欧州人権条約や国内憲法で保障された基本権の保護に関わるものであることから、加盟国は、国内の行政機関に制裁の見直し申請が提起されたときは、申請者が同機関に見解を述べうる状況を確保しなければならない。また、申請者が自らの権利を保護することが困難であれば、そのような状況も適切に考慮しなければならない(146-147)。したがって、制裁の見直し申請を受理したEU加盟国はガイドラインを誠実に実施しなければならず、申請者の主張や証拠が不正確であることを理由に、手続の開始を拒んではならない(148)。加盟国がこれに反するときは、申請者は国内裁判所に提訴し、その違法性を争うことができる(150153)。

  なお、第1審裁判所は、安保理決議は制裁の見直しを申請する権利を個人に与えていると制裁委員会は捉えているが(para. 145, see Yusuf, 276 and Kadi, 225)、この決議を実施するため、ECは第2次法を制定しているため、同権利は、EC法によっても保障されなければならないとしている(para. 145)。また、このEC法上、この権利(EC法上の権利)の保護手続は整備されていないため、加盟国は国内手続法を援用し、これを保障しなければならないとする(para. 151)。さらに、加盟国がこの権利を侵害するとき、個人は、EC法または安保理決議を直接的に援用することができるとしている(para. 150)。



 ところで、イギリス政府は、原告の財産は理事会規則 467/2001に基づき凍結されているため、その規則の有効性を争うべきであると主張しているが(para. 61)、第1審裁判所は、規則467/2001 と規則881/2002 は内容的にも、また、それらを制定する根拠となった国連安保理決議ないしEU理事会の共通の立場も異なり、原告に対する適用も異なること(paras. 71-78)、さらに、両規則の根拠条文(EC条約第60条、第301条ないし第308条)が異なっていることは、両規則が内容的に異なることを裏付けるとしている(para. 79)。


 

[1]      Council Regulation (EC) No 881/2002 of 27 May 2002 imposing certain specific restrictive measures directed against certain persons and entities associated with Usama bin Laden, the Al-Qaeda network and the Taliban, and repealing Regulation No 467/2001 (OJ 2002 L 139, p. 9)

 



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※ 

 このページは、平成平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第12巻第2号(2008年3月刊行予定)に掲載予定の拙稿「EU・ECによる安保理決議の実施と司法救済 〜 国際テロ対策に関する事例の考察 〜」に大きく依拠している。ホームページ上では脚注はすべて削除してあるため、前掲雑誌所収の拙稿を参照されたい。