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遺族年金の受取に関する男女差別の禁止


Case C-109/91, Ten Oever [1993] ECR I-4879


 オランダ人労働者の Ten Oever 婦人は労使双方が出資する年金制度に加盟していたが、1988年10月13日に死亡した。その当時、遺族年金は夫に先立たれた妻(未亡人・寡婦)に対してのみ支払われ、妻を亡くした夫(鰥夫〔かんふ〕)には支払われないことになっていたが、1989年元旦より、支給されることになった。

 妻の死亡後、Ten Oever 氏が遺族年金の支払いを求めたところ、年金基金(Pension Fund)は、確かに、年金もEC条約第119条(現第141条)第2項の意味における「賃金」にあたり、男女間の差別は禁止されるが(詳しくは こちら)、以下の理由に基づき、Ten Oever 氏は請求しえないとした。つまり、確かに、EC裁判所は、Barber 事件(Case 262/88 [1990] ECR I-1889)において、私人が第119条を直接援用し、提訴することを認めているが(直接的効力)、この判断の効力は判断が下された時点(1990年5月17日)以降に限定されており、Ten Oever 氏のケースには適用されない。




リストマーク 

前述したEC裁判所の判断の影響力の大きさを考慮し、1992年2月制定のマーストリヒト条約(EU条約)は、以下の定めを設けている。

Protocols

Annexed by the Treaty on European Union

to the Treaty Establishing the European Community

 

2. Article 119 -- For the purposes of Article 119 of this Treaty, benefits under occupational social security schemes shall not be considered as remuneration if and in so far as they are attributable to periods of employment prior to 17 May 1990, except in the case of workers or those claiming under them who have before that date intitiated legal proceedings or introduced an equivalent claim under the applicable national law.
 





 これを不服とし、Ten Oever 氏がオランダの国内裁判所に提訴したところ、同裁判所は以下の点に関する先行判断をEC裁判所に求めた。


@ 

法律に基づかない遺族年金は、EC条約第119条(現第141条)の意味における「賃金」にあたるか。

A 

@の問題が肯定される場合、Ten Oever 氏は遺族年金を妻の死亡時に遡って請求しうるか、それとも、EC裁判所の Barber 判断が下された日(1990年5月17日)より後の請求のみが許されるか。または、夫人はそれ以前に死亡しているため、全く請求しえないか。

 


 @について、EC裁判所は、労使関係の終了後に支給される恩恵もEC条約第119条(現第141条)第2項の意味における「賃金」にあたり、一定の要件を満たす限り、年金もこれに含まれることを明らかにした上で(paras. 8-10 この要件について、詳しくは こちら)、確かに、遺族年金は、労働者に対して支給されるわけではないが、死亡した配偶者が年金制度に加盟していたこと、また、従来の労使関係に基づき支給されるものであるから、第119条の適用範囲であると判断し、遺族年金の受給資格を女性(寡婦)に限定するのは、同条によって禁止されるとした(paras. 13−14)。


 また、Aの問題に関しては、Barber 判断が時間的な制限を設けているのは、年金積立と実際の支給との間には時間的なズレがあること、また、一定期間の積立額と将来の支給額との関連性を考慮したためであり、Barber 判断が下された以降の雇用期間に対して支払われる利益についてのみ、第119条を直接援用できるとした(paras. 16-20)。





職業活における差別禁止の原則

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