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同性間のパートナーシップと遺族年金


Case C-267/06, Maruko, not yet published


 2001年2月に制定されたドイツ法に従い、ドイツ人男性の Maruko は、同年、同じくドイツ人男性のAとパートナーシップ(Lebenspartnerschaft)を締結した。なお、ドイツ法上、同性間のパートナーシップは、異性間の婚姻と同じ法律関係になるよう、段階的に改められているが、婚姻と完全に同一の制度ではなく、婚姻は異性間でのみ許されている。

 Aはドイツ国内の劇場で衣装係として勤務しており、ドイツ劇場扶助組合(VddB)が運営する社会保障制度への加盟が国内法によって義務付けられていた。Aは1959年より同制度に加盟していたが、2005年に死亡した。そこで、Maruko が組合に遺族年金の給付を求めたところ、組合は、規程上、同性のパートナーへの支給は認められていないとし、これを拒んだだめ、Maruko は国内裁判所に提訴した。これを受け、国内裁判所は、特に、以下の問題に関する先行判断をEC裁判所に求めた。


@

2000年11月に制定されたEU理事会の指令(Directive 2000/78/EC)は、雇用・労働に関する差別の禁止について定め、特に、性的指向(sexual orientation)に基づく差別を禁止しているが、その前文では、加盟国の社会保障制度には影響を及ぼさない旨が規定されている。そのため、同指令は本件の遺族年金には適用されないか。


A

@の問題が否定される場合、同性パートナーの遺族年金支払請求を否認することは禁止されるか。



 @の問題について、EC裁判所は、指令が加盟国の社会保障制度に干渉しないとしているのは、EC条約第141条の趣旨に同じく、加盟国の財政負担やECの権限の欠缺を考慮したためであるから(詳しくは こちら)、本件の遺族年金支給拒否が差別禁止の対象になるかどうかは、遺族年金が第141条の「賃金」に相当するかどうか検討すればよいとした上で、確かに、本件年金制度への加盟は、法律によって義務付けられ、VddB という公的機関によって運営されているが、公的資金は投入されていないこと、また、加入者は劇場の労働者に限定されていること、さらに、年金額ないし遺族年金額は労働期間に基づき算定されていることを考慮すれば、EC条約第141条の意味における「賃金」に当たると判断している。また、このような条件が満たされるときは、制度が公的機関によって運営されるものであってもよいとする(Case C-267/06, Maruko, not yet published, paras. 49-61)。なお、第141条は、男女間の賃金差別の禁止について定めているが(詳しくは こちら)、本件のような(遺族)年金に関しては、両性が平等に扱われているかどうかではなく、(遺族)年金が「賃金」と同じように扱われるべきか否かが問題になっている。つまり、夫は妻の年金を受け取れるが、妻は夫の年金を受け取れないといった差別が行われることは一般的でないため、性別に基づく差別は問題にならないが、年金が「賃金」に当たるかどうかは検討を要する


 Aの問題については、EC裁判所は、国内法上、遺族年金の受け取りについて、異性間の婚姻と同性間のパートナーシップが同等に扱われているのであれば、Maruko に対する遺族年金の支払いを拒むのは指令に反するとした(paras. 65-73)。なお、EC裁判所は、ドイツ法上、遺族年金の受け取りについて、異性間の婚姻と同性間のパートナーシップが同等に扱われているかどうかはドイツの国内裁判所が判断すべきとしている。

 また、EC裁判所は、同性間のパートナーシップを認めるか、また、認める場合、どのような法的地位を与えるかどうかは国内法上の問題と捉えているため、加盟国の判断に委ねられるが、国内法上、これを認めなかったり、また、認めるにせよ、異性間の婚姻と同等に扱わないとしても、そのこと自体はEC法に反するものではないと解される(EU法上の要請について こちら を参照)。


 なお、本件判決が下された後、ドイツ連邦憲法裁判所は、同性間のパートナーに家族手当(配偶者扶養手当)を支給しないとしても、ドイツ憲法(基本法)に反するものではないとの判断を下した(2008年5月6日の決定 − 2 BvR 1830/06)。その理由として、同裁判所は、家族手当は子育てのために経済活動を制約される配偶者を扶養する必要性に基づいた制度であるが、同性間のパートナーシップには、そのような必要性はないことを挙げている。なお、同裁判所は、すでに2007年9月20日の決定でも同趣旨の判断を下しているが、本決定は、上述したEC裁判所の判断の後に下されており、EC裁判所が指摘するように、同性間のパートナーシップが婚姻と同等に扱われるべきか否かが検討されている点に意義がある。




職業活における差別禁止の原則

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