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 1. 司 法 審 査 の 対 象

基本規則は発効から2ヵ月以上が経過しているため、もはやその有効性を裁判上、争うことはできない(EC条約第230条第5)。問題になりうるのは、基本規則に基づき、委員会や理事会が発する規則やその他の措置、または不作為の適法性であるが、EC裁判所・ 第1審裁判所の確立した判例法によれば、法的拘束力を持ち、委員会や理事会の立場を確定的に決定する措置のみが訴えの対象となる(Case 60/81, IBM v Commission [1981] ECR 2639, paras. 10-12)。この判例法理に照らし、ダンピング調査手続の流れに沿って検討すると、以下のようになる。

 ダンピング調査手続は、原則として、個人の欧州委員会への申し立てによって開始される(基本規則第5条第1項)。同委員会は、申立ての適正さや信憑性について審査しなければならないが(同第3項)、証拠が不十分と判断されるときは、その旨を申請者に通知する必要がある(同第9項第2文)。この判断を不服としてEC裁判所または第1審裁判所に提訴しうるかどうかは、両裁判所の判例法より必ずしも明らかにならないが、調査手続を開始しないとする判断は、法的拘束力を持ち、かつ、最終的な決定に当たるため(委員会の手続が開始されなければ、手続は全く進行しない)、訴えの対象になりうると解される。これとは逆に、委員会が調査手続の開始を決定する場合には、委員会の立場を確定する最終的な措置はまだ発せられていないから、訴えの対象となる措置は(まだ)存在しない。

調査の結果、委員会がダンピング防止税を必要と考える場合には、前述したように、規則を制定し、暫定的に課税することができる。なお、この措置の効力期間は最長でも9カ月である(第7条)。委員会による行政手続の終了をもたらすこの規則を不服として、 第1審裁判所に提訴することもできるが、訴訟手続が9ヵ月以内に終了することは、きわめてまれである。審理中にダンピング防止税が失効すれば、訴えの利益に欠けることになる(Case 56/85, Brother Industries [1988] ECR 5655, para. 6)。

調査の結果、防止税の賦課は不要と判断される場合、委員会は調査の打ち切りを決定することができる(第14条第2項、第9条第2項前段参照)。手続の開始を申請したEC企業は、この決定の適法性を争い提訴しうるが(Case C-315/90, Gimelec and others v Commission [1991] ECR I-5589, paras. 6-51)、ダンピング防止措置が発動されないため、不利益が生じない輸出業者は、訴えの利益を有せず、提訴しえない(Case 229/86, Brother v. Commission [1987] ECR 3757, Tenor 1)。なお、欧州委員会による調査打切決定に諮問委員会(Advisory Committee)が異議を唱える場合は、欧州委員会は手続の終結を理事会に提案しなければならない(第9条第2項中段)。同提案はあくまでも提案であり、確定的な法的効力を有さないため、訴えの対象にはならない(Case T-212/95, Oficemen [1997] ECR II-1161, paras. 45-54)。

 これに対し、委員会が確定課税の賦課を理事会に提案し、理事会がこれに沿った形で規則を制定すると、このEC2次法は、訴えの対象になりうる。他方、委員会案を採択するために必要な過半数の賛成(8以上の加盟国の賛成)が得られず、理事会がダンピング防止税の導入を見送る場合に関しては、以下の3つの問題が生じる。第1に、この場合には、訴えの対象になりうる法令は存在するであろうか。中国産等の木綿に対するダンピング防止税の賦課が問題になった事例で、 第1審裁判所は、このような場合には、訴えられるべき法令は存在しないと判示した。すなわち、同裁判所の見解によれば、理事会が委員会案を採択し、確定税に関する法規を制定することが法的手段に当たるとすれば、委員会案の否決は、決定が下されないことを意味するとされる(Case T-213/97, Eurocoton and others v Council [2000] ECR II-3727, paras. 56-58)。また、第2に、基本規則第6条第9項によれば、委員会と理事会の調査手続は可能な限り1年以内に、また、どのような場合であれ、15ヵ月以内に終結しなければならないが、15ヵ月の期間が経過する前に理事会が委員会案を否決したのであれば、(前掲期間の経過前であるので)この決議はまだ不確定であり、その違法性を訴追することはできないと捉えるべきであろうか。第3に、同期間の満了によって、確定的な決定(ダンピング防止措置を講じないとする決定)が下されたと考えることは可能であろうか。前掲のケースにおいて、 第1審裁判所は、第2の問題については判示せず、第3の問題については、特に理由を挙げることなく、否定している(Case T-213/97, Eurocoton and others v Council [2000] ECR II-3727, para. 64)。なお、これらの問題は、EC企業団体の控訴に基づき、現在、EC裁判所で審理されている(Case C-76/01 P, Eurocoton and others v Council)。

ところで、ダンピング防止税の必要性や内容は、委員会によって実質的に決定され、委員会は確定措置の発動を理事会に提案する。これを受け、理事会は、通常、書類審査を行うに過ぎない。そのため、理事会によって確定された措置に違法性があるとすれば、委員会の判断ないし調査手続(行政手続)に暇疵があることになるが、委員会の提案に基づき理事会が規則を制定するならば、それが訴えの対象になる(Joined Cases T-159 and 160/94, Ajinomoto and NutraSweet v Council [1997] ECR II-2461, para. 83)。従って、このような場合、委員会に対する訴えは、利益に欠けることになる(Case T-73/97, BSC Footwear Supplies and others v Commission [1998] ECR II-2619)。

調査手続において委員会が下す決定に関しては、例えば、利害関係者の情報開示請求(基本規則第6条第7項)を却下する決定に対して訴えを提起しうる(Case C-170/89, BEUC v Commission [1991] ECR I-5709, para. 11)。これに対し、輸出業者の価格約束(price undertakig[第8条参照])の申し出を却下する委員会の決定は、単なる経過措置に過ぎないため、訴えの対象にならない。すなわち、同申立ての却下は、ダンピング防止税の賦課に先立つ措置と解される。また、委員会はこの決定を撤回しうるため、最終的な判断には当たらない(Joined Cases C-133/87 and C-150/87, Nashua Corporation and others v Council and Commission [1990] ECR I-719, para. 9)。

 



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