VI.
企業合併
1.法源
EEC条約は公正な競争を害する企業間の合意や優越的地位の濫用を明文で禁止する一方、企業の合併については独自の規定を設けていなかった。この点は、現行条約であるEUの機能に関する条約でも変わらず、同条約第101条は不公正な企業間合意の禁止について、また、第102条は優越的地位の濫用の禁止について定めている。しかし、企業の合併や買収に関するケースが増加するに伴い、第101条や第102条を補充する必要性が認識されるようになった。企業合併を規制する法令を制定する試みは、1970年代に開始されているが、立法化が実現したのは、1989年12月のことである。その背景には、EC裁判所の判決がある。すなわち、1987年11月に下された判決において、同裁判所は、企業合併は、直接、第81条に基づき規制することもできると示唆したことを受け、EU理事会は、明確な法的根拠を設けるに至った。第83条と第308条に基づき制定されたこの第2次法は、一般に、企業合併規制規則と呼ばれている。この規則によれば、加盟国の行政機関に代わり、欧州委員会が唯一の調査機関となるが(いわゆる
“one-stopp-shop”
原則)、委員会の競争総局(Comepetition
DG)には、専門の部署Merger
Task Forceが設置されている。
2.企業合併監視規則の適用範囲
企業合併監視規則(以下、規則とする)は、複数の独立した企業のあらゆる合併と、1ないし複数の企業を完全に、または部分的に支配する状態にいたる「EC規模」の経営参加で、EC市場の競争条件を阻害するものに適用される。また、複数の企業の経営を支配させる目的で、新たに会社を設立する場合にも適用されるが、単に、協力関係を築く目的で会社を新設する場合は適用されない(なお、後者には、EC条約第81条(企業間の合意)が適用される可能性がある)。
「EC規模」について、規則第1条第2項は、以下のように定めている。
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合併される全企業の全世界における年間総売上額が、50億ユーロを超えること、かつ、
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合併される企業の少なくとも2社のEUにおける年間総売上額が、それぞれ、2億5000万ユーロを超えること
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ただし、合併される企業それぞれのEUにおける総売上の3分の2を超える額が、一つの加盟国に集中している場合は適用されない。この場合には、加盟国法によって企業合併が規制される。
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この要件が満たされない場合は、以下の要件の充足が必要になる(第1条第3項)。
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合併される全企業の全世界における年間総売上額が、25億ユーロを超えること、かつ、
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合併される全企業が、少なくも3つの加盟国において、1億ユーロを超える総売上を計上しており、かつ、
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この3以上の加盟国のそれぞれにおいて、合併され企業の少なくとも2社の総売上が、2億5000万ユーロを超えること、かつ、
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合併される企業の少なくとも2社のEUにおける年間総売上額が、それぞれ1億ユーロを超えること
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ただし、合併される企業それぞれのEUにおける総売上の3分の2を超える額が、ある(一つの)加盟国に集中している場合は適用されない。
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なお、企業合併が加盟国間にまたがることは要求されない(例えば、ドイツ企業同士の合併であってもよい)。また、企業の国籍は問われないため、非EC企業間の合併も審査の対象になりうる。例えば、2001年には、アメリカの飛行機製造会社の
General Electric社とHoneywell社の合併が禁止されたが、Boeing社とMcDonald
Douglas社の合併や、Hewlett-Packard社とCompaq社の合併など、ECの調査は、アメリカとの国際問題に発展するケースも少なくない。
3.委員会の審査手続
上掲の要件を満たす企業合併に際しては、合意の締結より1週間以内に、欧州委員会に申し出なければならない(第4条、これを怠る企業に対し、委員会は、罰金を言い渡すことができる)。これを受け、委員会は事前調査を行い、1ヵ月以内に以下のいずれかの判断を言い渡さなければならない。なお、審査期間中、合併は禁止される。
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企業合併の許可(条件付きで認めることも可能である)(第6条) |
A |
EC法の適用がない場合には、加盟国の行政機関への移送(第9条、なお、第21条も参照せよ) |
B |
さらに調査が必要であること |
Bのケースの場合には、本調査が行われるが、それは4ヵ月以内に終了しなければならない。この期間内に委員会が見解を表明しないときは、合併が許可されたものと扱われる。また、委員会は、(場合により条件付きで)合併を認めることもできるし、これを禁止することもできる。なお、この段階にいたっては、もはや、加盟国の関係当局に移送しえない。
2002年末までに、委員会は、約2000件の審査を行ったが、本調査の段階まで進んだのは、わずかである。また、最終的に合併が禁止されたのは、20件程度である。
4.第一審裁判所の無効判決と調査手続の見直し
委員会の最終決定を不服とする者は、第一審裁判所に訴えることができるが、実際に訴えが提起されたケースは少ない。もっとも、2002年には、4件のケースで、委員会の決定が無効と宣言されている。判決によると、合併の影響に関する証拠が不十分であり、また、特に、経済統計の評価が不十分である。なお、この司法救済の意義を疑問視する見解も主張されている。なぜなら、判決が下されるまでには約2年を要するが、その頃には、もはや合併の経済的意義は喪失しているためである。
この一連の判決を受け、委員会は、2002年12月、新しい合併監視規則案を理事会に提出した(なお、手続の見直しに関する公開討論は、委員会の主導の下、すでに2001年12月に行われている)。
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