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リストマーク
欧州安全保障・防衛政策

  米国に頼らないヨーロッパ独自の外交・安全保障政策の必要性は従来より指摘されているが、コソボ紛争を契機として、その認識はさらに強まった。つまり、旧ユーゴスラビアにおける民族対立にEUは適切に対処しうることができず、外交・安全保障政策面における結束力の弱さを露呈した。このことを踏まえ、1999年3月の欧州理事会(ケルン欧州理事会)は、欧州安全保障・防衛政策を組織化し、また、強化することで合意した。その目的は、実効的な紛争予防・解決措置を導入することで、欧州内の安定性を確保することに置かれている。


リストマーク 参考 コソボ紛争とEU外交・防衛政策
ケルン欧州理事会の成果



 欧州安全保障・防衛政策の概要は以下の通りである。

 @ 迅速に投入しうるEU軍の編成

 欧州安全保障・防衛政策の最も野心的な課題はEU軍の編成であるが、EU独自の軍隊を発足させるのではなく、加盟国の軍隊を統合ないし再編するに過ぎない。1999年12月、欧州理事会は、加盟国より派遣される5〜6万人の軍人と、5000人の民間人(警察官)よりなるEU軍を遅くとも2003年内に組織化し、世界中の紛争地域に迅速に投入されうるようにしなければならないと決定している。これによって、EUの外交能力は完全になり、交渉能力が高まるとされている。なお、この軍事統合は、NATO に対立するものではなく、NATO を補充するものである(リストマーク 参照)。

 2005年以降、特に、1500人から2000人規模で編成されるEU軍が活動している。


 投入される軍人と民間人の地位については、2003年3月、EU加盟国間で合意が成立している(OJ 2003, No. C 321, p. 6)。



 A EU軍の組織

 2000年6月と12月の欧州理事会では、EU軍の組織・機構が詳細に定められたが、特に、12月の欧州理事会(ニース欧州理事会)では、以下の機関の設置について合意がまとまった。

政治・安全保障委員会 (Political and Security Committee)

 政治・安全保障委員会は、共通外交・安全保障政策の分野において、国際情勢を監視し、EU理事会に助言することができる。また、上述した理事会議長国や欧州委員会の権限にかかわりなく、EUの政策を監視する(EU条約第25条第1項)。さらに、理事会の責任の下で、危機管理活動の政治的統制や戦略的指令を行う(第2項)。この点に関し、理事会は政治・安全保障委員会に政策決定権やその他の権利を与えることができる(第3項)。


(参照) Council Decision of 22 January 2001 setting up the Political and Security Committee, OJ 2001, No. L 27, p. 1



EU軍事委員会 (Military Committee of the European Union)
 

 前述した政治・安全保障委員会 の軍事活動を補佐し、助言を与えるための機関として、EU軍事委員会が設置されている。この組織は、加盟国の軍隊の幹部で構成される。

 
(参照) Council Decision of 22 January 2001 setting up the Military Committee of the European Union, OJ 2001, No. L 27, p. 4




EU参謀部 (Military Staff of the European Union)


 加盟国よりEU理事会事務局に派遣された参謀でEU参謀部が構成される。この組織は、前掲のEU軍事委員会を保佐し、また、戦略を 実施する。

 

(参照)

Council Decision of 22 January 2001on the establishment of the Military Staff of the European Union, OJ 2001, No. L 27, p. 7

Council Decision 2005/395/CFSP of 10 May 2005 amending Decision 2001/80/CFSP on the establishment of the Military Staff of the European Union, OJ 2005, No. L 132, p. 17

Council Decision of 16 June 2003 concerning the rules applicable to national experts and military staff on secondment to the General Secretariat of the Council and repealing the Decisions of 25 June 1997 and 22 March 1999, Decision
2001/41/EC and Decision 2001/496/CFSP, OJ 2003, No. L 160, p. 72

 Council Decision of 8 March 2004 amending Decision 2003/479/EC concerning the rules applicable to national experts and military staff on secondment to the General Secretariat of the Council, OJ 2004, No. L 74, p. 17
 


 なお、軍隊と政治機関を仲介する指令本部はまだ設置されていない。独・仏・英・伊がその編成の準備をしなければならないとされているが、国内指令本部より派遣される人員で組織されると考えられている。




B 意思決定

 軍事行動に関する決定権は、EU理事会(外相理事会)にのみ与えられているが、その任務は、EU理事会の常設機関である常任代表部会によって保佐される。また、EU理事会の会合には、共通外交・安全保障政策の上級代表(リストマーク 参照)と欧州委員会が出席し、EU政策の一貫性を担保することになっている。






ヨーロッパ防衛機関(European Defence Agency)


 2004年7月に採択された「共通の行動」に基づき、ブリュッセルには、ヨーロッパ防衛機関が設置されている。なお、この機関には独自の法人格が与えられている。

 同機関はEU理事会の監督に服し、共通外交・安全保障政策の上級代表 によって統率されるが、EUの防衛力向上に関し、EU理事会と加盟国を支援し、また、欧州安全保障・防衛政策を恒常的な支援を任務としている。例えば、軍隊や軍事施設の質的および量的需要の調査、防衛研究・技術の向上、ヨーロッパ諸国間の軍備協力の調整などを行う。設置の法的根拠となった「共通の行動」(2004年7月採択)に拘束される全加盟国の参加を認めているが、加盟国は独自の防衛政策を放棄しなければならないわけではない。

 

(参照) ヨーロッパ防衛庁の公式サイト

Council Joint Action 2004/551/CFSP of 12 July 2004 on the establishment of the European Defence Agency, OJ 2004, No. L 245, p. 17