Top      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ



農業政策の基本原則


 ECの農業政策(共通農業政策)は、以下の3つの原則に基づき実施される。

 第1に、各加盟国の農産物市場組織を統合し、単一の市場組織を設立することである(EC条約第40条第2項参照)。それによって、EC域内における農産物の流通は自由化されることになる。もっとも、価格が各国で異なっていると、農産物の自由な流通は実現されえない。例えば、価格が高い国から安い国へは くい。輸出されにそれゆえ、1968年より、農産物価格は、加盟国間で統一されている(もっとも、流通形態や品質の違いに基づき、小売価格は各店舗で異なる)。なお、EC域内の農民の所得減少を防ぐため、統一価格は価格の最も高い加盟国の水準に設定された。そのため農産物の価格は高騰することになった[1]

 第2の原則は、EC域内において収穫された農産物は、外国産品よりも優遇されることである(EC特恵」Gemeinschaftspraferenz/Community preference)または「EC産の優遇」)。例えば、EC域内で産出された農産物は、一般に、外国産よりも高価であるが、このような場合には、後者には関税や輸入数量制限が課される。また、EC産に国際競争力がない場合には、ECから補助金が支給され、輸出が助成される[2]。かといって、ECは、保護主義の要塞にはあたらないとされる[3]。なぜなら、前述したEC特恵原則が適用されるにもかかわらず、第3国から多くの農産物が輸入されているためである(特に、熱帯果実、果実ジュース、家畜飼料用の油糧種子および羊肉)。1995の農産物輸入額は、500ECU であった(これに対し、アメリカの農産物輸入額は、280ECU であった)。

 第3に、共通農業政策の遂行のために必要な資本は、共同体の財源で賄うということである(財源の一体性)。従って、加盟国は、自国の農民に対し、直接、国庫より補助金を支給しなくてもよい一方で、独自の政策に基づき、自国の農業を過度に助成することは不可能になる。共通農業政策は、ECの政策である以上、その経費をECの財源で賄うことはもっともであるが、ECの財源負担率は加盟国間で異なっている。国民総生産の高い工業国は、重い負担を強いられる一方で、共通農業政策より受けうる恩恵は小さい(別の観点から言えば、工業国の犠牲の上に農業国は優遇される)といった状況が生じており、公平な財源負担をめぐる議論は尽きない。共通農業政策の一環として、農業指導保証基金[4]が設立されているが、この点については、入稲福智「ECの農業政策」石川明・櫻井雅夫編『EUの法的課題』(慶應義塾大学出版会、1999年)105125頁(107108頁)を参照されたい。



[1]   Cf. Commission of the European Communities, Our Farming Future, Brussels 1993, p. 7

[2]   農業保護によって農産物が過剰に生産されるようになったため、農産物の輸出は重要な課題になっている。

[3]   Europaische Kommission, Die Gemeinsame Agrarpolitik im Wandel, Brussel 1996, p. 2.

[4]   European Agricultural Guidance and Guarantee Fund (EAGGF).

 




Voice Homepage of Satoshi Iriinafuku


「EUの農業政策」のトップページに戻る