Top


EUの農業政策


1. 特殊性

 1950年代、ヨーロッパの6ヶ国(ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)は三つの共同体を設立した。その中心的存在であった欧州経済共同体(EEC)は、1993年11月に欧州共同体(EC)、また、2009年12月には欧州連合(EU)へと発展しているが、その特殊性は設立当初より際立っていた。特に、自由貿易地域ではなく、関税同盟として、通商政策の分野でより強い権限を持っていたこと、また、農業政策に関する権限も与えられていたことが挙げられる。つまり、加盟国は農業政策に関する自らの権限を放棄し、EECに与えることになったが、これはフランスの強い要請に基づくものであった。詳細には、EECが設立された1950年代後半には、まだ第2次世界大戦後の食糧不足状態が残存していたこと、また、忍び寄る工業化社会の陰で第1次産業が衰退することが危惧されていたため、フランスはEECが農業政策の分野でも活動することを強く要請した。また。それが認められないと、EECには加盟しないとまで主張し、パートナー5ヶ国を説得した。

 なお、イギリスは農業政策に関する権限を失うことをきらい、EECには加盟せず、他のヨーロッパ諸国とは関税同盟よりも緩やかな自由貿易地域(欧州自由貿易連合、EFTA)を創設した。

 上述した経緯で、EECには農業に関する権限も与えられることになったが、その権限は非常に強力であり、加盟国は自らの権限を実質的には完全に放棄している点に注目すべきである。この強力な権限を行使し、EECは農家に補助金を与え、また、EEC内の農産物の価格支援を行った。そのため、EECの予算の大半は農業政策につぎ込まれることになった。その結果、食糧問題は解消されたが、1980年代に入り、人々の健康意識が高まると、逆に食糧が余るようになった。それを解消するため、EECが補助金を出して、農産物の価格を下げ、域外に輸出するようになった。これらの一連の政策はEEC(今日のEU)の農業予算を膨張させただけではなく、結果として、農家を甘やかし、その競争力を弱めることになったため、批判されることになった。

 そのため、農業政策改革はEUにとって最も重要な政策課題の一つになっている。




2. 立法手続
 前述したように、農業政策は非常に特別な性質を持っており、とりわけフランスは強い関心を持っていた。そのため、EEC発足当初、農業政策に関する法令は、EU理事会が全会一致で制定することになっていた。このような厳格な手続によれば、政策の迅速な発展はのぞめないため、1970年代には多数決制度へ移行することになっていたが、フランスはこれに抵抗し、EU理事会への出席をボイコットするようになった。これは他の分野に大きな影響を与え、EU統合を停滞させたが、加盟国の重大な利益に関わる法案の採択には、引き続き、全加盟国の賛成を必要とする合意が成立し(ルクセンブルクの妥協)、事態は収まった。

 ところで、2009年12月にリスボン条約発効するまで、農業政策に関するEU法は、EU理事会が単独で制定し、欧州議会は拘束力のない意見を述べうるに過ぎなかった。これは、EU理事会は加盟国政府の代表(農業大臣クラスの代表)で構成される機関であり、加盟国の統制を可能にするためであるが、EU民主化の要請に基づき、現在は、EU市民の代表で構成される欧州議会には、理事会と対等の権限が与えられている。



3. 改革と課題 EU予算の大半が農業政策(農業支援、農産物の価格調整)につぎ込まれており、その見直しが強く求められている。

 なお、2019年、EUは牛乳の価格調整をとりやめた。それによって、牛乳の価格が下がりし、酪農家の収入を減少させることになったため、酪農家の強い反発を招いている。

 他方、農業は自然環境を乱すことも指摘されるようになっている。とりわけ、家畜の飼育は大量の汚物を発生させるため、食肉の摂取を制限または完全にやめるべきとする動きがヨーロッパ各地で高まっている。



4. 練習問題 以下の文章を読み、誤りがあれば、その箇所を指摘しなさい。

1)農業政策に関する権限は加盟国からEUにほぼ完全に移されているため、農業に関し、もはや加盟国が単独で決定することはできない。

2)農業に関するEU法の制定に関し、EU理事会には強力な権限は与えられていなかった。

3)EU予算の大部分は農業政策につぎこまれており、批判されている。

4) 関税同盟とは異なり、自由貿易地域は外部との貿易規則を統一している。

5)イギリスは他のヨーロッパ諸国ともに、EFTAと呼ばれる自由貿易地域を設立したが、後に脱退し、EECに加盟した。

6)欧州議会は加盟国政府の代表で構成される機関であるため、EUの政策を民主化するためには、欧州議会の権限を強化する必要がある。


  提出はこちら