2023年上半期のEU理事会議長国
スウェーデン


右派連合政権の発足

 スウェーデンでは伝統的に左派政党が強く、1920年以降、歴代首相の大多数は社会民主労働党より輩出されている。2022年9月の総選挙でも同党は第1党の座を堅守しているが、対立する右派勢力に僅差で敗れた(参照1参照2)。これを受け、同党のアンデション首相は退陣し、穏健党(中道右派)のクリステンション党首(写真下)が新首相に就任している。

Ulf Kristersson, Swedish Prime Minister
スウェーデンのウルフ・クリステンション首相
2022年12月 ブリュッセル
© European Union,2022
 
 2022年10月に発足したこの新政権には穏健党の他に、キリスト教民主党と自由党が参加しているが、3つの政党の議席を合算しても過半数に達しない。そのため、社会民主労働党に次いで第2政党となった民主党の閣外協力を得ているが、民主党はネオナチに源流を持つ極右政党である。スウェーデン史上、その協力を得て政権が成立した例はなく、国政は新しい局面に入っているが、新政府に対する民主党の影響力は侮れず、特に環境保護やリベラルな移民政策にどのような影響が生じるか注目される。

極右政党のEU政策

 民主党の影響力はとりわけEUとの関係について強く表れている。同党はかつてのようにEU脱退を主張してはいないものの、EU統合に消極的であることに変わりはない。そのため、EUとスウェーデンの距離(地理的な距離だけではなく、政治的な距離)が広がることが懸念されているが、2023年上半期、同国はEU理事会議長国を務めているだけに、民主党の動向が注視されている(参照)。


 スウェーデンはEU理事会議長国期間の主要課題として以下の4点を挙げている。

・安全保障政策の強化
・経済発展
・環境政策の強化
・EU加盟国における民主主義と法の支配の徹底

 これらの内、とりわけ環境政策と民主主義・法の支配に関し、極右の民主党は従来のスウェーデン政府とは異なる見解を主張しており、新政府に影響を及ぼしている。

 詳しくは、民主党は危機的な気候変動の存在を否定しており、温室効果ガスの削減に消極的である。その影響を受け、新政府は再生可能なエルギー源への投資を大幅に減らすことになった。これまでスウェーデンはEU内で先陣を切って環境保護に取り組んできたが、新政府の方針はこれに合致していない。なお、新政府は新たに原子力発電所を建設する計画を示しているが、EUも原子力をグリーンエネルギーと捉えている。

 ハンガリーのオルバン首相は民主主義や法の支配の原則に違反しているとしてEUより批判されているが、民主党はオルバン首相に対し友好的な態度を示している。そのため、2022年12月、欧州委員会が同原則違反を理由にハンガリーへの補助金支払いの凍結を提案した際、唯一スウェーデンは、ハンガリーとともに反対票を投じた。なお、2023年6月21・22日、スウェーデンの首都ストックホルムでEU加盟国は両原則に関して審議する予定である。

 同様に民主党は移民政策に関しEUは加盟国の政策に深く介入すべきではなく、最小限の範囲で行動すべきと主張しており、スウェーデン政府のEU政策に影響を与えている。

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