ヨーロッパ政党・欧州規模の政党
(EU内の政党グループ)

Eurpean Political Parties

1. 定義

 ヨーロッパ政党(european political parties)とは主にEUの議会である欧州議会での活動を想定し結成される国際的な政党である。ヨーロッパで国境を越えて設立されるため、EU条約では「欧州規模の政党」(political parties at Eurpean level)と呼ばれている(第10条第4項)。概して政治的イデオロギーを共通にするEU内の政党が連携して立ち上げており、例えば、中道右派のキリスト教民主主義政党は「ヨーロッパ国民党」(European People's Party, EPP)を、また、中道左派の社会民主主義政党は「ヨーロッパ社会党」(Party of European Socialists, PES)を設けている。

 多くの場合、ヨーロッパ政党は国内政党間の連合組織に過ぎず、独自の党員を持たない。つまり、党首や所属議員は国内政党に属す政治家である。この連合体に参加できるのはEU加盟国内の政党に限られているわけではないが、その名称に示されているように、「ヨーロッパ」の政党でなければならない。なお、世界規模の連合組織も珍しくなく、例えば、「社会主義者インターナショナル」(Socialist International)には世界各地の社会民主主義政党が加盟し、ヨーロッパ政党である「ヨーロッパ社会党」(PES)よりも長い歴史を持つ。

 EU条約第10条第4項は、ヨーロッパ政党はEU内における政治意識の形成に貢献し、EU市民の意思を代弁する組織として位置づけている。前述したように、この政党は欧州議会での活動を主要な任務としており、欧州議会選挙に際しては筆頭候補を立てるとともに、マニフェストを作成している。

 ヨーロッパ政党にはEUより活動費が支給されるため、以下の要件を満たし、欧州議会に登録する必要がある。
 2024年7月1日現在、10のヨーロッパ政党が登録されており(参照)、各党は欧州議会で議席を持つ。1999年より最大規模を誇る「ヨーロッパ国民党」(European People's Party, EPP)は、すでに1976年に結成され、EU統合を初期の段階より、つまり、1950年代より牽引してきた。現在、同党は以下の国内政党で構成されているが、スイスの中央党、ノルウェーの保守党等、非EU加盟国の政党も参加している。

ヨーロッパ人民党(EPP)を構成する国内政党の例
 加盟国  政党
 ドイツ  キリスト教民主同盟(CDU) キリスト教社会同盟(CSU)
 フランス  共和党
 スペイン  国民党(PP) カタルーニャ民主連合
 オランダ  キリスト教民主アピール(CDA)
 ベルギー  キリスト教民主フラームス 民主人道主義中道派

 なお、欧州議会で議席を持つものの、ヨーロッパ政党として登録していない団体もある(参照)。

◎ 欧州議会内の会派

 欧州議会において、ヨーロッパ国民党(EPP)は他党の所属議員や無所属議員と共に会派を結成しており、同会派は「ヨーロッパ国民党グループ」と呼ばれる。
 両者の名称はほとんど同じであるが、同一の組織ではない。

 ヨーロッパ社会党(PES)も同様に、無所属の議員と共に「社会・民主主義者の進歩同盟(S&D)」と呼ばれる会派を結成しており、現在、この会派はヨーロッパ国民党グループに次いで規模が大きい。

 諸国の自由主義政党は「ヨーロッパのための自由民主同盟」(Alliance of Liberals and Democrats for Europe, ALDE)と「ヨーロッパ民主党」(European Democrats)と呼ばれる二つのヨーロッパ政党を結成しているが、欧州議会では共同で「ヨーロッパ刷新」(Renew Europe)という会派を立ち上げ、活動している。

 環境保護政党が結成した「ヨーロッパ緑の党」(European Green Party)は、地方主義を掲げる「ヨーロッパ自由同盟」(European Free Alliance, EFA)と共に「Greens/EFA」と呼ばれる会派を結成している。

 2024年5月現在、欧州議会には下記の七つの会派が存在する。

グループ名 特徴・イデオロギー 議員数
ヨーロッパ人民党グループ(EPP Group) 保守 中道右派 178
社会・民主主義者の進歩同盟(S&D) 革新 中道左派 138
Renew Europe(ヨーロッパ刷新) リベラル 中道 99
Greens/EFA 環境保護 地方重視 アルタナティブ 70
ヨーロッパ保守・改革 (ECR) ナショナリズム 69
Identity and Democracy (ID) ナショナリズム ポピュリズム 49
欧州統一左派・北方緑の左派同盟(The Left) 左派 39

参考:European Parliament

 なお、どの会派にも所属していない議員が63人いる。

2. 歴史

 EUは欧州議会(European Parliament)と呼ばれる立法機関を持つ。議員は5年に1度、実施される選挙で選ばれるが、この選挙は比例代表制によることがEU法で定められている。そのため、立候補する者は政党に所属していなければならない。なお、この要件を満たすため、自ら政党を立ち上げることも可能である。

 一般にヨーロッパの政党は加盟国単位で設立されている。例えば、現在、活動している政治団体としては最も長い歴史を持つ社会民主主義政党は以下のように国ごとに設けられており、その組織や名称は異なる。

EU加盟国の社会党・労働党(中道左派政党)の例
 加盟国  政党
 ドイツ  社会民主党(SPD)
 フランス  社会党
 スペイン  社会労働党(PSOE)
 オランダ  労働党
 ベルギー  ワロン系社会党 フラマン系社会党
 
 これらの政党は、19世紀後半より社会主義を推進するため、または、ファシズムに抵抗するため結束し、種々の国際組織を立ち上げてきた。1952年に欧州石炭・鉄鋼共同体が設立され、その諮問機関として「共同集会」(Common Assembly)が設けられると、それに出席する加盟国の社会主義者は「社会主義グループ」を結成した。なお、共同集会は加盟国の国会議員の代表78名で構成され、そのメンバーを直接選出するための選挙は実施されなかった(参照)。

 1958年、欧州経済共同体と欧州原子力共同体が創設されると、「共同集会」はこれらの新しい共同体の機関ともなり、名称は「欧州議会集会」(European Parliamentary Assembly)に改められた。さらに、1962年、「欧州議会」に変わり、現在に至る。なお、当時、議会に立法権は与えられておらず、諮問機関としての役割しか果たしていなかったが、議会活動を通し、加盟国の政党間の連携が強まる。1973年、前掲の「社会主義グループ」は「EC社会主義政党連盟」(Confederation of Socialist Parties of the European Community)に発展した。
 
 1976年、欧州議会選挙を実施し、議員は加盟国の国民(EU市民)によって直接、選出されることが決まると、ヨーロッパ規模の政党を立ち上げる動きが活性化する。社会主義政党に次いで支持率が高かった保守系の政党(キリスト教民主主義政党)は、同年、ヨーロッパ国民党(EPP)を結成しているが、これは国内政党の単なる連合ではなく、ヨーロッパ規模の政党となることを目指していた。
 
 1979年、欧州議会選挙が初めて実施された。議席数は加盟国毎に割り当てられ、投票も加盟国単位で行われたため、国内政党がEUレベルで結束し、選挙戦を展開することはなかったが、国内政党間の連携が進んだ。

 欧州統合が発展するにつれ、ヨーロッパ規模で政党を結成する必要性が高まっていき、1992年に制定されたマーストリヒト条約には「ヨーロッパ政党」に関する規定が設けられた。これを受け、前掲の社会主義政党連盟は「ヨーロッパ社会党」(Party of European Socialists)に変わった。また、「ヨーロッパ緑の党連盟」(European Federation of Green Parties)や「ヨーロッパ自民改革党」(European Liberal Democrat and Reform Party, ELDR)等のヨーロッパ政党が発足した。

 1999年、アムステルダム条約が発効し、ヨーロッパ政党はEUより補助金を得られることになった。それに伴い、2003年、同政党の要件が定められている(前述参照)。

3. 役割・責務

 ヨーロッパ政党は、EU統合を推進する上で重要な役割を果たしており、EU内における政治意識や世論形成に貢献するものとされる。特に、欧州議会自身の強い要請に基づき、1992年に制定されたマーストリヒト条約では、この点が明瞭に謳われるようになった(現行EU条約第10条第4項参照)。

 ヨーロッパ政党ないし会派は欧州議会における活動を主要な任務とする。欧州議会選挙では筆頭候補を擁立するとともに、マニフェストを作成し、加盟国で選挙戦を展開しているが、これはEU統合に関する市民の認識や意識を高める上で非常に重要な活動にあたる。なお、ヨーロッパ政党ないし会派のマニフェストは、EU統合を支持するものでなくてもよい(参照)。中にはEUからの離脱を訴える政党もあり、同党の所属議員も欧州議員として活動している。

4. 欧州委員長のポスト

 EUの行政機関である欧州委員会は、加盟国政府(厳密には欧州理事会)によって任命されるが、その委員長の指名には、欧州議会選挙の結果が考慮されなければならない。詳細には、直前の欧州議会選挙で最も多くの議席を獲得したヨーロッパ政党に属する者の中から、委員長が選ばれる(EU条約第17条第7項)。

欧州委員会の指名・任命

 この制度は、2009年12月に発効したリスボン条約によって導入された。それを踏まえ、同条約の発効後、最初に行われた欧州議会選挙(2014年5月)では、各ヨーロッパ政党が筆頭候補を擁立し、選挙で勝った政党の筆頭候補が欧州委員長になるという構想の下で選挙戦が繰り広げられた。そして実際に、選挙で勝利を収めたヨーロッパ人民党(EPP)の筆頭候補が欧州委員長に任命された。その人物はルクセンブルク首相の経歴を持つジャン=クロード・ユンケル(Jean-Claude Juncker)であったが、彼は筆頭候にはなったものの、議員に立候補していたわけではない。つまり、あくまでも次期欧州委員長のポストを獲得するために筆頭候補になった。

 なお、委員長候補を指名し、また、同人を委員長として任命するのは加盟国政府(欧州理事会)であり、欧州議会ではない。加盟国政府の中には、ユンケルの委員長就任に反対する者もいたが(特に、当時のイギリス首相デービット・キャメロン)、多数決により(EU条約第17条第7項参照)、ユンケルが選ばれた。

 (参照)Spitzenkandidaten: the underlying story

 ところで、欧州委員長は再任が認められている。しかし、ユンケルは再任を辞退したため、次の欧州議会選挙(2019年5月)でも、選挙に勝ったヨーロッパ政党の筆頭候補が委員長になるという構想が維持され、選挙が行われた。特に、ヨーロッパ人民党の筆頭候補であるマンフレッド・ウェーバー(Manfred Weber)は委員長になる意欲を明確に示していた。しかし、同党が第1党となったにも拘わらず、彼が委員長に指名されることはなかった。それを阻止したのはフランスのエマニュエル・マクロン (Emmanuel Macron)大統領であり、彼は委員長になる者は加盟国首脳としての経歴を持つべきという持論を曲げなかったとされている(参照)。なお、マクロンはヨーロッパ人民党を構成する保守系の政治家ではなく、リベラルな政党「再生」(Renaissance)を率い、同党は欧州議会では「ヨーロッパ刷新」(Renew Europe)と呼ばれる会派に参加している。また、ヨーロッパ人民党は第1党となったものの、議席数を減らしたことや、2014年5月とは異なり、有力な筆頭候補の擁立に難航し、加盟国政府に強くアピールできなかったことを指摘しうる。

 (参照)2019年の欧州議会選挙

 このような事情があるとはいえ、欧州委員長の指名に議会選挙の結果、換言するならば、EU市民の声が反映されなかったことは、EU内、特に、マンフレッド・ウェーバーの祖国であるドイツで強い反発を招いた(参照)。また、数度の会談の後、加盟国政府が委員長に指名したのは、同じドイツ出身のウーズラ・フォン デア ライエン(Ursula von der Leyen) であったことも、ドイツ国内での議論を過熱させた。なお、当時、ドイツの国防相を務めていたフォン デア ライエンは、欧州議会選挙に立候補していないばかりか、委員長候補としては想定外の人物であり、ドイツ首相のアンジェラ・メルケル(Angela Merkel)は、この人選を支持していなかった(参照)。ウェーバーにとっても、受け入れがたい決定であったが、フォン デア ライエンは同じ政党グループに属し、対立は望ましくないこと、また、EU人事への批判ないしEU内での対立は欧州統合に対する市民の信頼・評判を損ねるため、承服せざるをえなかったと解される。

 なお、この人事は、EUの主人は加盟国政府であり、EUは「上からの統合」であることを如実に示している。また、欧州議会の権限は強化されたとはいえ、EUは議院内閣制を採用しておらず、国内議会と比べると、欧州議会の権限は弱いことを示している(これはEU加盟国政府が権限を保有しているためである)。

 加盟国首脳(欧州理事会)によって委員長候補に指名されたフォン デア ライエンが委員長になるには欧州議会の承認を必要とする(EU条約第17条第7項参照)。議会は議員の多数決によってこれを決するが、わずか9議員の差で彼女は承認された(参照)。


欧州議会により欧州委員長に選出されたフォン デア ライエン
(2019年7月)
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