アウシュビッツ解放80周年

2025年1月27日



 2015年1月27日、アウシュビッツの解放80周年を記念する式典がビルケナウ絶滅収容所で行われ、生存者50名を含む大勢の人が参列した(参照)。その中にはイギリス国王のチャールズ3世、スペイン国王のフェリペ6世、デンマーク国王のフレデリック10世、また、フランス大統領のマクロン、ウクライナ大統領のゼレンスキーが含まれ、ほぼ全てのヨーロッパ諸国は国家元首を派遣した。

 なお、アウシュビッツを解放したソ連(現ロシア)の元首は招待されなかった。ロシアは2015年のクリミア併合後、国際的に孤立しており、式典に参加していない。また、イスラエル首相のネタニヤフは国際刑事裁判所より逮捕令状が出されているため、参加を見送った。仮に参列していたとすれば、初代欧州理事会常任議長の経歴を持つトゥスク首相の下で法の支配の強化に取り組んでいるポーランドは困難な状況に置かれることになっていた。

 ドイツからはシュタインマイヤー連邦大統領、ショルツ連邦首相、ハーベック連邦副首相を始めとする政府要人が参列し、ホロコースを引き起こした国の責任を示した。

 約2時間に亘る式典で主役を務めたのは被害者であり、4人のアウシュビッツ生存者が「死の工場」に戻り、それぞれの体験を語った。また、大殺戮が再び起きる可能性は否定できないとし警鐘を鳴らした。なお、前述したように式典では被害者に主眼が置かれており、諸国の代表や政治家が登壇することはなかった。



 ホロコーストの終焉および終戦から79年が経過した2024年、90ヶ国で24万5000人の被害者が暮らしているという統計が発表されたが(参照) 、自らの体験を語る人は減っており、史実を風化させてはならないことが指摘されている 。もっとも、忘れないことだけではなく、80年前の大殺戮を若い世代にしっかり伝えることも重要である。記念式典の直前、西洋諸国 の若者の10人に一人はホロコーストについて認識していないという衝撃的な調査結果が公表された(参照)。アンケートを行った8ヶ国で、第2次世界大戦期のユダヤ人の殺戮について聞いたことがないと答えた若年層(18~29歳)が最も多いのはフランスで、48%にも上る。なお、アメリカの若者で知らないと回答したのは3%であるが、48%の者はアウシュビッツを挙げることができなかった。600万のユダヤ人がホロコーストの犠牲になったことを知らない者の割合も同様に高く、ルーマニアでは70%、フランスでは65%に達している。

 これは学校教育の重要性を浮かび上がらせているが、ホロコーストに関する情報は豊富にあり、SNSで発信する生存者もいないわけではない(参照) 。また、この大惨事をテーマにした映画やドキュメンタリーは毎年のように制作されている。学校に通わない者もいるため、全ての者に80年前の史実を認識させるのは容易ではない。  

 なお、ガザ戦争の悪化を受け、ユダヤ人に対するイメージも悪化しており、ヨーロッパに住む彼らや宗教施設に対する攻撃は戦後最悪の水準にある。また、近時、欧州では極右政党が台頭し、イスラム教徒や難民を排斥する動きが強まっているが、ユダヤ人が迫害にあっているわけではない。彼らを擁護する極右政党もあり、その反ユダヤ性を指摘することは容易ではないとされている(参照) 。 難民の著しい増加やヨーロッパ社会のイスラム化に反発する極右の活動と現在のイスラエルの政策やユダヤ人に対する批判を混同してはならない。


日本では2025年2月21日より公開される『ブルータリスト


Verfolgt – Die sieben Leben des Danny Dattel“(2025年)
3歳で両親と共にアウシュビッツに移送されたDanny Dattelのドキュメンタリー


The Cello of Pàl Hermann

ユダヤ教と反ユダヤ思想(pdf)