欧州検察庁
Eurpean Public Prosecutor's Office


はじめに

 日々、EUは多額の資金(補助金)を市民に提供している。その一方で、EUは加盟国の付加価値税の一部や関税など、独自の財源を持っているが、これらの金銭に関する不正は後を絶たない。これまでEUは、それを実効的に取り締まり、必要な場合は刑事告発する権限をEUは持っていなかった。また、それを補うための加盟国の行動は、自国の領土内に限定されていたため、効果は限定されていた。そのため、長年にわたり加盟国は国境を越えて活動できる「EU検察制度」の導入について検討してきたが、見解は一つにまとまらなかった。そのため、22の加盟国で「欧州検察庁」(European Public Procecutor's Office)を立ち上げることになった。

 検察官は参加する加盟国によって任命されるが、その手続が遅れたため、活動開始は1年以上、遅れたが、当面、必要な人員は確保できるようになったことから、2021年6月1日、活動開始されることになった。

 欧州検察庁の本部はルクセンブルクに設置されているが、初代長官にはルーマニアの汚職捜査官である Kövesi が就任した。

 加盟国に派遣される検察官は、①EU補助金の不正受給や使用、②脱税(付加価値税)など、EUの財政に関わる事件について、加盟国内で直接的に刑事捜査を行い、必要な場合には加盟国の裁判所に告訴することができる。

EPPO
© European Union 2021

1. 設立目的

 EUは①農業補助金、②地域振興、③研究・文化的プロジェクトの支援など、様々な経済的支援を行っている。そのために必要な財源は、主として、①加盟国からの拠出金や②輸入関税で賄われているが、③加盟国が徴収する付加価値税の一部もEUの財源となっている。そのため、脱税はEUの財源にも影響を及ぼす。前掲の各種補助金にからむ不正を含めると、年間10億ユーロ(1000億円)単位の損失が生じているとされる。また、その背後には国際的犯罪集団が存在するとされているが、各加盟国の権限は自国の領土内に制限されるため、効果的な取り締りができないとされている。このような弊害をなくし、EU財政に関わる犯罪を取り締まるため、EUは欧州検察庁(European Public Prosecutor’s Office)を立ち上げ、2021年6月1日、活動を開始することになった。

2. 組織

(1) 中央組織
 欧州検察庁の所在地はルクセンブルクで、1名の主席検察官(General Procecutor)と、各加盟国より1名の検察官が配属される。

 なお、この機関は、「自由、安全および正義の領域」と呼ばれるEUの司法・内政政策の一環として設置されたが、厳密には、「一部の加盟国間における緊密な政策」という形態をとる。つまり、全ての加盟国ではなく、22の加盟国が参加しているに過ぎない 。また、検察官は、これらの加盟国より1名ずつ選出される。

※ ポーランド、ハンガリー、スウェーデン、デンマーク、アイランドの5ヶ国は参加していない。  なお、イギリスも不参加を表明していた。

(2) 加盟国内の組織  
 その他に、参加国の領土内で活動する欧州派遣検察官が参加国によって任命される(各国2名以上)。 EUの行政機関である欧州委員会は、加盟国政府によって任命されるが、その委員長の指名には、欧州議会選挙の結果が考慮されなければならない。詳細には、直前の欧州議会選挙で最も多くの議席を獲得した政党グループに属する者の中から、委員長が選ばれる(EU条約第17条第7項)。

欧州検察官 参加国における刑事捜査・訴追の監督、参加国間の刑事捜査・訴追の調整
※ 非参加国での活動は認められていない。
欧州派遣検察官 任命した参加国における刑事捜査・訴追
なお、これらは参加国の人員も関与し、同国の法令に従って実施される。


※ EUのその他の組織との関係

3. 設置手続

 欧州検察庁は、EUの機能に関する条約第86条(「自由、安全および正義の領域」の刑事司法協力に関する規定)に基づき設立された。それによれば、欧州委員会の提案を受け、EU理事会が全会一致で規則を制定し、検察庁を設立することになっている。なお、それには欧州議会の同意を必要とするが、議会には、この権限しか与えられていない(第86条第1項)。長期にわたる審議にも拘わらず、EU理事会の見解はまとまらなかったため、2017年3月、欧州理事会は「一部の加盟国間における緊密な政策」という方式を採択し、翌4月、16の加盟国が検察庁の設立を決定した。なお、その後、さらに6ヶ国が設立に加わっている。

参考リンク

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