準拠法の決定に際し、具体的妥当性を考慮した外国の裁判例


事例

Babcock v. Jackson 事件
ニューヨーク州最高裁判所、196359日判決



 アメリカ合衆国ニューヨーク州に住むJackson夫妻は、同じくニューヨーク州に住む友人のBabcockらとカナダへ週末旅行に出かけたが、カナダのオンタリオ州において、Jackson氏の運転ミスにより交通事故が起き、Babcockは負傷した。帰国後、BabcockJackson氏に対して損害賠償請求の訴えをニューヨーク州の裁判所に提起した[1]

  国際私法の伝統的な理論や、アメリカの判例法によれば、同事件には不法行為地主義が適用される(適用通則法第17条、法例第11条第1項同旨)。これは、@行為地の公益や秩序の回復・維持、A当事者の予見可能性(行為地は当事者にとって共通しているし、行為地の確定が容易)、また、B被侵害利益の保護を目的としている。

 他方、不法行為地であるオンタリオ州では好意同乗法 (Automobile Guest Statute)が施行されており、同法によれば、報酬を得ることを目的とせず、他人を同乗させ運転する車両の所有者または運転者は、乗客の負傷ないし死亡から生じるあらゆる損害について責任を負わない。

  ニューヨーク州の第1審裁判所は、「不法行為には行為地法を適用する」(行為地法主義)という伝統的な原則に基づき、当該事件にオンタリオ州の法律を適用し、Babcockの損害賠償請求を退けた。控訴も棄却されたので、Babcockはニューヨーク州の最高裁判所に上告した。上告審は、不法行為に関し、伝統的な行為地法主義による場合、関連する法令の趣旨や目的を考慮しないと不当な結果が生じるおそれがあることを指摘した上で、オンタリオ州の行為同乗法は、運転者と同乗者とが共謀で事故を起こし、保険会社に対して詐欺的請求を行うことを防止する目的で制定された点を考慮した。そして、オンタリオ州は偶然に事故発生地であったという以外に関連性はなく、自動車の出発地・帰着地であり、また登録地・保険地でもあるニューヨーク州の利益の方が大きいため、事件にニューヨーク州法を適用すべきであると判断した。


 

[1]   本事件に関し、例えば、櫻田「国際私法」(第2版)有斐閣49頁以下および溜池「国際私法講義」有斐閣54頁以下参照。



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