連 結 点


 法例(国際私法)の適用に際し、具体的な法律事件は、まず、単位法律関係 に分類しなければならない。

 例えば、交通事故で負傷した被害者が、加害者に治療費を請求しうるかという問題は、「不法行為に基づく損害賠償請求」の問題として捉える必要がある。


治療費の請求

矢印

不法行為に基づく損害賠償請求
(単位法律関係)



 法例は、単位法律関係ごとに、その何らかの要素を媒介にして準拠法を指定している。この要素を連結点とよぶ。

 例えば、法例 第10条第11条 は、法律関係(法律行為)と土地の結びつきを重視し、土地を連結点にしている。その結果、その土地の法令(属地法[1])が準拠法に指定される。



[例]土地を連結点とする場合


法律問題

単位法律関係

連結点

準拠法

交通事故で負った傷の治療費の請求

矢印

不法行為に基づく損害賠償請求

(法定債権の成立)
法例第11条



矢印

原因たる事実(交通事故)発生地

矢印

原因事実発生地法


土地の所有権はいつ移転するか

矢印


物権の取得時期

(物権の得喪)
法例第10条第2項

矢印


原因事実(例えば、売買)完成時における目的物(土地)
所在地

矢印


原因事実完成時における目的物の
所在地法


 上例の交通事故(不法行為)のケースであれば、以下の点を基にして、準拠法を決めることもできよう。

     加害者の住所 矢印 加害者の住所地の法令

     被害者の住所 矢印 被害者の住所地の法令

     加害者と被害者の国籍 矢印  加害者と被害者の本国法 

     法廷地 矢印 法廷地の法令

 しかし、法例第11条は、原因事実発生地を連結点として、その発生地法を準拠法に指定している。その理由としては、以下の点が挙げられる。

@

交通事故などの不法行為は、行為地の公益に関わるため

A

不法行為によって生じた損害は、行為地において生じることが多いため

B

不法行為地(事故地)以外の法律によるとすると、加害者と被害者の予測しえない結果が生じる可能性があるため



  問題 問題




  属人法の連結点 国籍住所常居所最密接関連地


 これに対し、人の身分や能力に関する紛争は、国際私法上、伝統的に、属人法に従って解決されるべきであるとされてきた(例えば、どこへ行こうとも、甲国の国民には甲国の法令が適用される)。属人法とは、ある者がどこへ行こうとも、その者に適用される法令の総称であるが、何を基準に属人法を決定するかという点については諸外国で統一されておらず、以下のような基準が採用されている。




  1. 国籍に基づき準拠法を決定する制度(本国法主義)[2]

 

 この説によると、当事者の本国の風俗、習慣ないし文化等を反映した法律問題の解決が可能になるため、人の身分や能力に関する準拠法を決める基準(連結点)として、国籍は最も適切であると考えられる。また、国籍は恒常的であるため、準拠法決定の安定性に資するとされる(一般に、ある人の国籍が変更されることはないので、準拠法も変更されることはない)。もっとも、国籍は、国家と個人の公法上の結び付き紐帯)であり、個人の私法上の法律行為には密接に関連しない。そのため、国籍を基準にして、準拠法を決定するのは不適切であるという批判がある。また、この説によると、以下の問題が生じる。


ある者が複数の国籍を有する場合(重国籍者の準拠法の決定[法例第28条第1項参照])

ある者が国籍を有さない場合(無国籍者の準拠法の決定[法例第28条第2項参照])

ある者が難民の場合(難民の準拠法の決定[難民の地位に関する条約第12条第1項参照])[3]




  2. 住所に基づき準拠法を決定する制度(住所地法主義)


 法例における属人法の連結点は、原則として国籍である。しかし、国籍では準拠法を決定できない場合(⇒ 無国籍者)や、国籍を連結点として準拠法を決定するのは適切ではない場合(⇒ 難民) は、他の連結点が必要なる。このような場合、法例は、常居所(後述B参照)を連結点としているが、より一般的な(民法などの法律でも一般に用いられている)概念としては、住所が挙げられる。



 住所を連結点とする規定

法例第12
なお、第12条は債権譲渡の準拠法の決定に関する規定である。人の身分や能力に関し、住所を連結点にしている規定は法例の中にはない

遺言の方式の準拠法に関する法律第7条

難民条約第12条第1



 

 住所は、当事者の生活(私法行為)に密接した連結点であるが、住所の概念は各国で必ずしも統一されていない(民法第21条参照)。法例における住所の概念はどのように解釈するべきであろうか。この問題については、以下の見解が主張されている。


 法廷地法説

国内の実質法(例えば、日本民法第21条)と同じように解釈するとする立場

 領土法説

住所の存否が問題となる国の実質法に従って決定するとする立場
この理論によれば、複数の国に住所が認められることもある(
A国法によれば、A国内に住所があり、B国法によれば、B国に住所が認定されることがある)。

 国際私法自体説

国際私法独自の解釈を行うべきとする考え



 国際私法の適用が問題となる場合には、国際私法独自説が妥当であるが、法例は、領土法説によるとされている(複数の住所の存在を認める第29条第2項は、領土法説を前提にしている)。

 

 なお、法例第29条第2項は、重住所の場合(住所が複数ある場合)には、その住所の中で、当事者に最も密接な関係を有する地の法律を住所地法とすると定める。他方、無住所の場合には居所地法が適用される(第1項)。



 3. 常居所に基づき準拠法を決定する制度


 前述したように、「住所」という概念は各国で統一されていない。常居所とは、この不統一性を補うために考案された、国際私法上の概念である(すなわち、常居所は、住所に代わる概念である 

 常居所とは、人が平常居住し、現実に生活している場所のことである。常居所という概念の内容を決定する具体的な基準は存在しないが、法務省は、戸籍事務処理の指針として、以下の内容の通達(平成元年102日)を発している[4]。なお、この通達は後に部分的に改正されているが、いずれにせよ、法例の適用に際し、裁判所を拘束する効力はない。


 

(1) 日本における常居所の認定

 日本人の場合には、住民票があれば常居所の存在が認定される。国外転出のため、住民票が削除された場合でも、出国1年以内であれば、常に日本に常居所を認める。

 外国人の場合には、出入国管理および難民認定法による在留資格に応じて、1年以上または5年以上、国内に在留している場合に認定される。



(2) 外国における常居所の場合

 日本人の場合には、5年以上、永住目的などの特別の場合には1年以上居住する場合に認定される。

 外国人が、その本国に居住している場合には、住民登録がなされている場合に認定される。第三国における常居所の認定は、日本における外国人の常居所の認定の場合に準じる。



 

◎ 常居所決定の指針(法務省通達)

日本人

外国人

日本

@ 住所の場合に同じ(住民登録)
 これは純粋な国内事件である。


A 国外に転出する場合であれ、1年以内であれば、日本に常居所があるとする。

B 出入国管理及び難民認定法による在留資格に応じ、永住目的であれば1年以上、それ以外の目的であれば、5年以上、日本に滞在する場合は、日本に常居所があるとする。

外国

C 永住目的の場合であれば1年以上、それ以外の目的であれば、5年以上、ある外国に住んでいれば、その国に常居所があると認定される。
 基本的に、Bと同じである。

本国 ※1

 第3国 ※2

 @に 準じる

 C に 準じる


※1

例えば、ドイツ人がドイツに居住する場合である。純粋な国内事件であるので、@に準 じる。

※2

例えば、ドイツ人がカナダに居住する場合である。日本人が外国に住む場合に相当するんで、Cに準 じる。


 

 常居所が連結点になる場合において、常居所が不明の場合には、居所によるが(法例第30条本文)、第14条(第15条および第16条によって準用される場合を含む)が適用される場合には、当事者に最も密接な関係のある地(最密接関連地)が連結点となる(第30条但書および第28条参照)。

 最密接関連地の決定は、個別・具体的に決定しなければならないとされるが、例えば、当事者の従来の常居所や親族の常居所、生活様式、言語や職業の場所などが総合的に考慮される[5]。水戸家審は、将来の居住地を重視した[6]





 最密接関連地(国)の決定について、将来の居住地を考慮した裁判例

 水戸家審平成334 (渉外判例百選(3)18頁および24頁以下参照)


1. 事案の概要

 イギリス人の男性Yは、1963年に来日し、日英両国を往復しつつも、日本で生活をしていた。

 1977年、ヨットで祖国に戻る際、Yは、スリランカでフランス人女性Xと知りあい、共に暮らすようになった。そして、1979年、YXを連れ日本に戻り、まもなく、長男A(英国籍と仏国籍を共に有する)が誕生した。その後、3人は、3年余り、日本に居住し、1983年から、ヨットで世界一周の航海についた。そして、19904月、XYはグアムで結婚し、同年5月、再び日本に戻った。しかし、Xは放浪的な生活をいとうようになり、離婚と長男Aの親権者指定の調停を水戸家庭裁判所に申し立てた。


 

Aの親権者の決定に関する準拠法はどのようにして決定されるか。性質決定 の問題と、A二重国籍者 であることに注意しなさい。

参照

法例第21条による準拠法の決定



2. 審判の概要

 Aの常居所を決定するにあたり、水戸家庭裁判所は、上掲の事実関係の下では、英・仏両国内に常居所があるとはいえないとし、XY間で「Aの養育看護は、今後、父であるYがこれをなすことに合意があり、かつ、A本人においてもこれを了解としてYと現在生活を共にしており、今後YAはいずれ英語圏のケニアに居住し、Aに対しイギリス人としての教育を受けさせたいとの意向である」という理由に基づき、Aの最密接関連国はイギリスであると判断した。

 



準拠法の決定







ぽいんとポイント

 人の身分や能力に関する問題は、属人法によるが、それは、通常、以下のようにして決定される。

 @ 国籍 ⇒ 本国法
       それがない(または定まらない)ときは

 A 常居所地 ⇒ 常居所地法
     それがない(または定まらない)ときは

 B 居所地 ⇒ 居所地法
       または、最密接関連地 ⇒ 最密接関連地法


問題 住所の代わりに、常居所地が連結点として用いられるのはなぜか。

      参照
 








問題

以下のケースにおいて、婚姻の効力の準拠法は何か答えなさい。

@

夫婦ともにドイツ人である場合

A

夫はドイツ人であるが、妻は日本人の場合で、両者とも、日本に住んでいる場合

B

 Aのケースで、夫はドイツに、また、妻は日本に住んでいる場合



     ぽいんと 
参照




 



[1]     属地法とは、具体的には、事実発生地法、行為地法または所在地法であり、また法廷地法を指す場合もある。

[2]     法例は、原則的に、本国法主義を採用している。

[3]     住所地法を属人法としている。

[4]     法務省通達の詳細について、溜池『国際私法講義』(第2版)117118頁を参照されたい。

[5]     法務省の基本通達(平成元年102日法務省民23900号、渉外判例百選(第3版)19頁)参照。

[6]     渉外判例百選(3)18頁および24頁以下参照。



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