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EU法講義ノート



リストマーク E U か ら の 脱 退 リストマーク

このページに記載されている情報は現行EU法とは異なっています。

現行EU法に合致した説明はこちらです



 欧州憲法条約 やリスボン条約(同条約発効後のEU条約第50条)とは異なり、現行EU・EC条約は、EUからの脱退について定めてない。また、欧州石炭鉄鋼共同体条約とは異なり(参照)、EU条約やEC条約の発効期限は無期限とされている(欧州石炭鉄鋼共同体条約第97条、EU条約第51条、EC条約第312条)。それゆえ、ある加盟国が自らの意思で一方的にEUから脱退し、条約上の権利・義務関係を解消することは、EU法上、可能ではないと解される(条約法条約第56条第1項参照)。ただし、一般国際法を援用した脱退は認められよう。例えば、他の加盟国による重大な条約違反(同第60条第2項)や事情の根本的な変化(同第62条)を理由に脱退が認められよう。

 なお、ドイツ連邦憲法裁判所は、1993年10月、マーストリヒト条約 の合憲性に関する判決において、ECが単一通貨(ユーロ)の安定性を図るといった目標を達成しえない場合、ドイツは、最後の手段としてEUから脱退しうると述べている(BVerfGE 89, 155 (204))。EU法の状況を考慮に入れない、このような、ある種の「脅迫」は文献上、批判されている。

 他方、その他の全ての加盟国が脱退を認めるときは、EU条約第48条に従い現行法を改正し、脱退を認めることも可能である(ウィーン条約法条約第60条第1項参照)

 現行法上の状況は上述した通りであるが、欧州憲法条約第I-60条 は、加盟国の脱退する権利や脱退手続について定めている(詳しくはこちら)。また、この規定は、リスボン条約に継承されている(リスボン条約発効後のEU条約第50条

 ところで、上述した法的問題とは異なり、ある加盟国が国際法上の主体性を失うときは、自動的にEU加盟国としての地位も失い、事実上、EUから脱退することになる。



 なお、現行法は、加盟国の除名についても定めていないが、EU条約第7条所定の制裁は、重大なEU法違反を犯した加盟国に対してとりうる唯一の措置であること考慮すると、一般国際法(第60条第2項)に基づき、除名することは認められないと解される。






区切り線


条約法に関するウィーン条約
(条約法条約)


第56条(終了、廃棄又は脱退に関する規定を含まない条約の廃棄又はこのような条約からの脱退


1 終了に関する規定を含まずかつ廃棄又は脱退について規定していない条約については、次の場合を除くほか、これを廃棄し、又はこれから脱退することができない。

(a)

当事国が廃棄又は脱退の可能性を許容する意図を有していたと認められる場合

(b)

条約の性質上廃棄又は脱退の権利があると考えられる場合


2 当事国は、1の規定に基づき条約を廃棄し又は条約から脱退しようとする場合には、その意図を廃棄又は脱退の十二箇月前までに通告する。


第60条(条約違反の結果としての条約の終了又は運用停止)

1 二国間の条約につきその一方の当事国による重大な違反があつた場合には、他方の当事国は、当該違反を条約の終了又は条約の全部若しくは一部の運用停止の根拠として援用することができる。
 

2 多数国間の条約につきその一の当事国による重大な違反があつた場合には、

(a)

他の当事国は、一致して合意することにより、次の関係において、条約の全部若しくは一部の運用を停止し又は条約を終了させることができる。
 (i) 他の当事国と違反を行つた国との間の関係
 (ii) すべての当事国の間の関係

(b)

違反により特に影響を受けた当事国は、自国と当該違反を行つた国との間の関係において、当該違反を条約の全部又は一部の運用停止の根拠として援用することができる。

(c)

条約の性質上、一の当事国による重大な違反が条約に基づく義務の履行の継続についてのすべての当事国の立場を根本的に変更するものであるときは、当該違反を行つた国以外の当事国は、当該違反を自国につき条約の全部又は一部の運用を停止する根拠として援用することができる。

3  この条の規定の適用上、重大な条約違反とは、次のものをいう。

(a)

条約の否定であつてこの条約により認められないもの

(b)

条約の趣旨及び目的の実現に不可欠な規定についての違反

4  1から3までの規定は、条約違反があつた場合に適用される当該条約の規定に影響を及ぼすものではない。
 

5  1から3までの規定は、人道的性格を有する条約に定める身体の保護に関する規定、特にこのような条約により保護される者に対する報復(形式のいかんを問わない。)を禁止する規定については、適用しない。


第61条(後発的履行不能)

1 条約の実施に不可欠である対象が永久的に消滅し又は破壊された結果条約が履行不能となつた場合には、当事国は、当該履行不能を条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができる。履行不能は、一時的なものである場合には、条約の運用停止の根拠としてのみ援用することができる。
 

2 当事国は、条約に基づく義務についての自国の違反又は他の当事国に対し負つている他の国際的な義務についての自国の違反の結果条約が履行不能となつた場合には、当該履行不能を条約の終了、条約からの脱退又は条約の運用停止の根拠として援用することができない。


第62条 事情の根本的な変化

1 条約の締結の時に存在していた事情につき生じた根本的な変化が当事国の予見しなかつたものである場合には、次の条件が満たされない限り、当該変化を条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができない。

(a)

当該事情の存在が条約に拘束されることについての当事国の同意の不可欠の基礎を成していたこと。

(b)

当該変化が、条約に基づき引き続き履行しなければならない義務の範囲を根本的に変更する効果を有するものであること。


2 事情の根本的な変化は、次の場合には、条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができない。

(a)

条約が境界を確定している場合

(b)

事情の根本的な変化が、これを援用する当事国による条約に基づく義務についての違反又は他の当事国に対し負つている他の国際的な義務についての違反の結果生じたものである場合


3 当事国は、1及び2の規定に基づき事情の根本的な変化を条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができる場合には、当該変化を条約の運用停止の根拠としても援用することができる。