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EU法講義ノート

補 完 性 の 原 則 リスボン条約


 EUは、加盟国より与えられた権限のみを、基本諸条約が定める条件に従い行使しうる(個別的授権の原則、EU条約第5条第1項第1文および第2項)。例えば、租税の分野では、間接税に関する権限は与えられているが、直接税に関する権限は与えられていない(EUの機能に関する条約第113条および第114条第2項参照)。したがって、EUは、間接税に関する法律のみを制定しうる。ただし、加盟国の間接税を統一する権限は与えられておらず、EUは、これを調整しうるに過ぎない。



 EUの権限

 間接税(売上税など)  あり
 ただし、加盟国法を調整するのみ
 
 直接税(法人税など)  なし
 直接税は加盟国の財政に直接的な影響を及ぼすため


     リストマーク 税法の立法手続(EC条約第93条)

 
 同様に、社会政策雇用政策、また、環境政策 に関する管轄権も制限されており、基本的な権限は加盟国が保有している。このように、EUに権限が完全に委譲されていない政策事項参照)ついては、以下の条件にしたがってのみ、ECは権限を行使しうる(補完性の原則、EU条約第5条第1項第2文および第3項〔EC条約第5条第2項参照〕)。


@ 加盟国が実施するのでは、EUの政策の目的が十分に達成されないこと、

かつ

A

措置の規模または効果の面で、加盟国が実施するよりも、ECが実施する方がより良い成果が得られると考えられること(Case C 377/98, Netherlands v. EP and Council [2001] ECJ I-7079, para. 32)


 補完性の原則の趣旨は、EUの権限が肥大化することを防ぐことにあり、EU(EC)にますます多くの権限が委譲されることになった マーストリヒト条約 の制定に際し導入された。中央政府による政策決定を抑制し、地方の自主性や裁量権を尊重する原則の精神は連邦国家の基本原則の一つにあたるが、連邦国家体制をとるドイツのイニシアチブに基づき、また、イギリスの強い支持を受け、EU法体系(EC法体系)にも取り入れられた。

 詳しくは後述するように、補完性の原則(EC条約第5条第2項〔旧第3b条第2項〕)は、アムステルダム条約 や、未発効の 欧州憲法条約、また、2009年12月に発効した リスボン条約 によって補充されている。


   (参照) 漁業政策の分野における補完性の原則




補 完 性 の 原 則 の 適 用


 補完性の原則の適用に際しては、以下の点を検討しなければならない。


(1) ECに権限が完全に委譲されていない案件であるか参照

 補完性の原則は、EUに権限が完全に委譲されていない政策事項(参照)限り適用される。つまり、加盟国がEUに権限を完全に委譲した結果、加盟国は独自の政策を実施しえない案件に関しては、補完性の原則は適用されない。なお、加盟国からEUへの権限委譲やEUの権限は第1次法内で定められており(参照)、補完性の原則に基づき、EUに新たな権限が委譲されたり、または、ECが権限を失うわけではない。つまり、補完性の原則は、権限配分に関する原則ではなく、ECの権限行使について定める原則である。

 アムステルダム条約(厳密には、同条約に添付されている議定書 = EC条約附属第30議定書)は、補完性の原則のダイナミックな性質について触れている。つまり、ECの活動範囲は、必要性に応じて拡大したり、制限される(Ziffer 3)。ただし、変わりうるのはECの活動範囲であり、権限ではない。 つまり、予め明確に規定された権限の範囲内で、ECの活動分野は、必要に応じ、変化しうる。


(2) 加盟国が実施するのでは、EUの政策目的が十分に達成されないこと

(3)

措置の規模または効果の面で、EUが実施する方がより良い成果が得られると考えられること


 (2) と (3) の要件について、アムステルダム条約の議定書(EC条約附属第30議定書)は、以下の3つの解釈基準を示している(Ziffer 5)。

@

複数の加盟国間にまたがる問題で、加盟国間の対応では十分に対処しえないこと

A

加盟国間の対策だけであったり、ECの措置がなければ、EC条約上の要請(競争阻害要件の除去、隠れた通商制限の撤廃、経済・社会協力の強化など)に反したり、その他の方法によって加盟国間の利益を著しく害すること、かつ、

B

加盟国レベルで対処するよりも、ECレベルで政策を実施する方が、その規模や効果の面で、明らかにすぐれていること



(4)

EUの措置は必要な範囲内に限定されているか比例性の原則

 補完性の原則は、さらに、比例性の原則 によって補充される。つまり、ECの措置は、目的の達成に必要な程度を超えてはならない(例えば、不必要なまでに市民の権利を制約したり、重い義務を課してはならない)(EC条約第5条参考参照)。なお、補完性の原則とは異なり、比例性の原則は、ECが排他的な権限を有する分野でも適用される。


 前述したように、補完性の原則は、1993年11月に発効したマーストリヒト条約に基づき、初めて、EU・EC法体系(EC条約第5条第2項)に導入されているが、それ以前に制定された第2次法についても、同原則との整合性が審査される。例えば、欧州委員会は SLIM プログラム(Simpler Legislation for the Internal Market, KOM [1998] final)の検討している。





EC裁判所の判例法と補完性の原則

 当初、補完性の原則(EC条約第5条第2項)が裁判所による法令審査の基準になるかどうか争われていた。ECJも、補完性の原則に照らした第2次法の審査に消極的であったが、近時は詳細に検討している(Case C-491/01, British American Tabacco [2002] ECJ I-11453)。また、司法審査を実効的にするため、立法者は、第2次法の前文において、補完性の原則の適用に関する見解を示さなければならないとされている(Case C-233/94, Einlagesicherung [1997] I-2405; Case C-377/98, Biopatent-RL [2001] ECJ I-7079)。

 なお、アムステルダム条約の議定書(EC条約附属第30議定書) は、補完性の原則の遵守は、EC条約の規定に基づき審査されると定める(Ziffer 13)。つまり、EC条約第220条以下の規定に従い、EC裁判所は第2次法が補完性の原則に違反していないか審査しうる。


    リストマーク EU・ECの制裁と補完性の原則





国内議会による統制


 アムステルダム条約に付された「EUにおける国内裁判所の役割に関する議定書」(EU条約附属第9議定書)は、EU(EC)の立法行為に関する国内裁判所の役割を強化するため、欧州委員会は、あらゆる協議文書(グリーン・ペーパー、ホワイト・ペーパー、コミュニケ)を迅速に国内裁判所に送達しなければならないと定める(Ziffer 1)。また、EU理事会や欧州議会に法案が提出されてから、EU理事会の議事録に登録されるまでには、原則として、6週間の期間が設けられていなければならないとし(Ziffer 3)、国内議会が見解を述べる機会が確保されている。

 欧州憲法条約 は、EU理事会における審議を公開し、国内議会による関与の度合いを強めているが、補完性の原則の遵守に関しては、いわゆる「早期警戒システム」を導入し、国内議会の権限をさらに強めている(議定書)。まず、国内議会は(または、上院や下院が単独で)、欧州委員会によって作成された法案が補完性の原則に違反する旨の異議を述べることができる(第6条、第7条)。特定数の国内議会が異議を申し立てるとき、欧州委員会は法案について再検討しなければならないが(第7条第3項)、法案を撤回する必要はない(第4項)。欧州委員会が法案を維持し、審議される場合、国内議会は自国政府にEC提訴への提訴を要請しうる(第8条参照)。


(参照)

補完性および比例性の原則の適用に関する議定書(アムステルダム条約附属議定書 = EC条約附属第30議定書)

EUにおける国内裁判所の役割に関する議定書(アムステルダム条約附属議定書 = EU条約附属第9議定書)

従来の補完性の原則

Subsidiarity Monitoring Network of the Committee of the Regions




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